「起きなさい。もうすぐおじいちゃん家に着くよ」
母に言われて、まぶたをゆっくり開ける。
昼食を食べたあとに車に乗ったからか、眠気に負けて助手席で眠っていたらしい。
窓の外は変わらず、夏の空。
雲もなくバケツ塗りをしたような空色。
シートベルトの締めつけが重たく感じて、軽く体をずらす。
それだけで、夢の続きが遠ざかっていく気がした。
夢の中では、亡くなった祖母が何かを言っていたような気がする。
けれど、思い出そうとすればするほど、指の隙間から水がこぼれるように、言葉が遠ざかっていった。
まだ、祖母について一つも忘れていないけれど夢の中での出来事は頬を撫でられたくらいしか覚えていない。
「着いたよ」
母の声が、今度ははっきり聞こえた。
車がゆっくりと止まり、外から蝉の声が流れ込んでくる。
この音も、夢の中で聞いた気がして、少しだけ胸がざわついた。
家の門は、変わらずにそこにあった。
けれど、今日はなぜか、玄関先に誰かの影が見えた気がした。
私は目を凝らす。
でも、そこには誰もいない。
私は車から降りて地面に足をつけても、現実感がふわふわしている。
ほんのさっきまで見ていた夢が、
まだ私を離してくれないようだった。
7/16/2025, 1:07:20 PM