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届かないのに





片想い、した事ありますか?

節目がちに目線を落としたその人はため息混じりに語り始める。
幾ら想っても届かない。想ったところで報われない。
時間をいくら費やしても、どんなに好きでも届かない。
何をしたって意味がない。だって届かないもの。

そう言って大事そうに手にしたチョコレートはゴミ箱に捨てようとしている。

だから言ってやったのだ。
馬鹿だねって。

片想いした事ないやつなんているの?
人を好きになるのって打算がいるの?
報われないって無駄なの?

矢継ぎ早に追い立てるように言葉が早くなる。
涙目でこちらを見る目には悲しみより悔しさ。

共感が欲しい?
慰めが欲しい?
ごめんね、そんなの知った事ではない。
捨てられそうになったチョコレートに込められた気持ちを自虐で染めて捨てようなんて許せない。

知っている。
幼馴染をずっと好きだった君を。
本当は自分を見て欲しいと素直になれない君を。
手を伸ばせば届く幸せにさえ、あれこれと理屈を並べ立てては屁理屈をこねて、素直に手を出さない事を選んで拗ねている。

背中をバシンと叩いてその手元に大切な想いを戻して
当たって砕けろと送り出す。
本音を言わないのはお互い様だった。
骨は拾ってやるから、なんて無理に明るく振る舞って
涙を拭って走り出す背中を見送った。

背中を叩いた手が熱い。
本当の馬鹿はどっちだ。
自分自身に苦笑する。
知っている。
幼馴染をずっと好きだった君を。
片想いをしていた。
そんな君に。

走っていった背中が見えなくなってから
見えなくなった背中に向けて手を伸ばす。

決して届く事がないものを知っているのは
誰でもない自分自身だけだった。

6/17/2025, 12:17:53 PM