中宮雷火

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【タイムマシンなど】

もしもタイムマシンがあったなら、父に会いたい。
僕は5歳の時に、父と生き別れた。
両親が離婚したのだ。
理由は分からない。
だけど、僕は父が大好きだった。
父が語る宇宙の話が、とても好きだった。

26世紀の現在も、タイムマシン開発は全く進んでいない。
僕が死ぬまでの間に完成することは無いのだろう。

僕は父を追いかけたかった。
また、隣を一緒に歩けるように。
そんな思いで、必死に勉強した。
幸いなことに財力だけはあったので、難関私立大学にも十分入れる環境にあった。
ただ、学力が追いついていなかった。
来る日も来る日も、必死に勉強した。
青春時代の全てを勉強に捧げた。
そのおかげで、友達はちっともできなかったけれど、難関私立大学に合格することができた。
僕の目的は、政府の官僚になること。
現在、政府は他の惑星への移住を計画しているらしい。
つまり、僕が政府の官僚として移住計画に携われば、父に近づけるのではないか。
父はこの手の話に興味津々だろうから、きっと僕を見つけてくれるに違いない。
そう思ったのだ。

そして、僕は遂に政府の官僚になった。
人生でいちばんの達成感を感じた。
やっと、父に会えるかもしれない。
そう強く感じた。

僕は計画通り、移住計画に携わることとなった。
その名も「政府惑星移住計画委員会」。
これは120年ほど前にできたもので、今では実際に移住計画を実行している。
僕も小学生の時に月へ移住した。
月には「月へのエレベーター」で移動した記憶がある。
壁はスケルトンで、広大な宇宙を手に取るように観ることができた。
他にも、火星や水星、イオへの移住は「宇宙船」を使うらしい。
これらは全て、僕らの仕事である。

移住計画に携わってから初めてみたが、宇宙船はめちゃくちゃ大きかった。
「こんなに大きいんですね…」
あまりの大きさに呆然としていると、
「10年後くらいにはこの規模感に慣れてるから安心しろ」
と、先輩にフォローされてしまった。
他にも、「視察」という名目で金星の近くに行ったりもした。
灼熱地獄だった。
正直、恐怖を感じた。
「こんなに表面って荒れてるんですね…」
あまりの状況に呆然としていると、
「10年後くらいには何とも思えなくなるから安心しろ」
と、またまた先輩にフォローされてしまった。

そんな当たり前ではない日々をずっと繰り返すうちに、就職して4年が経っていた。
ある日、先輩からある話を持ち出された。
「実は、お前に直接的に移住サービスを見てほしいと思っている。
というのも、地球には一般人で1人だけ地球に留まっている人がいるらしい。
本人に移住の意思はないらしいが、そろそろ移住してくれないとこっちが困る。
それで月に強制送還することになったんだよ。
これはお前にとって貴重なチャンスだ。
ぜひ、参加してくれないか?」
僕はとてもワクワクした。
直接的に体験できるチャンスだ。
そしてこれは、各種メディアに載るかもしれないらしい。

実行日当日。
事前資料で大体のことは把握している。
当日の流れや、トラブルの対処についてなど。
ただ、一つ引っかかったのは、移住者についてだ。
相生星吾。51歳。男性。
顔立ちが僕に似ているような気がする。
それに、この名前どっかで聞いたことある。
なんとなく、「これお父さんじゃね?」と思った。
ただ、名前はうろ覚えで年も覚えていない。本当に僕のお父さんだと言い切ることはできなかった。 

「おい、行くぞ。」
はっとした。前には先輩がいる。
ああそうだ。
今日は、僕という人生において最大の日。
気を抜いてどうする。
「行きましょう、先輩。」
僕は歩き出した。

僕は移住者の隣の席に座るよう指示された。
離れた席には先輩がいる。
大丈夫なはずだ。

移住者はスマホを見ていた。
だけど、触っている様子は無い。
ちらっと見ると、写真が写っていた。
家族写真。
両端には両親、そして真ん中には…
「君、ちょっといいかい?」
急に話しかけられてびっくりした。
スマホを覗きすぎて、不快に思われただろうか。
「は、はい?」
「君、新卒かい?」
「いえ、4年目です。」
「そうかい・・・」
あ、ただの他愛もない話か。
少しほっとした。
「君に、お願いがあるんだ。」
またまた急に話しかけられた。
「なんですか?」
「私の命は君より短い。どちらかといえば死 に近づいていると思う。」
「ほ、ほう…」
一体この話にどのようなオチをつけるのだろう。

「だから、もし私が死んだとき、私の骨を地 球に散布してくれないか?」
え?
びっくりした。
こんなことを頼む人なんて、今までいただろうか。
「地球に、ですか?」
「ああ、地球に。生まれ故郷だからね。」

「君、名前は?」
「えっと、五十嵐アキです」
「アキくん、ねぇ。」
移住者は、まるで僕の名前を味わうかのように頷いた。

「あの、遺骨の散布についてなのですが、」
何だか、勝手に口が動いたようだった。
「なんだい?」
「場所の指定はございますか?」
「場所か、そうか。それなら、瀬戸内がいい な。」
瀬戸内。
家族旅行で瀬戸内に行ったことがある。
何となく、気づいたことがある。

「わかりました。瀬戸内ですね。」
僕は、微笑んだ。
ああ、お父さんだ。
この雰囲気、喋り方、お父さんそっくり。
何も変わってない。
6歳の僕に、今なら伝えられる。
タイムマシンなんて、必要なかったよ。
君はいつか、お父さんに会える日が来るんだよ。
僕は呼吸を1つ置いて、お父さんに言った。
「では、遺骨の散布は私が責任を持って行わ せていただきます。」

7/23/2024, 7:15:58 AM