シシー

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 昼過ぎにメッセージアプリの通知音が鳴った。
外回りに出てる後輩か、期日の近い仕事を押しつけてくる上司か。どちらにせよ面倒事なのは変わらない。
溜息をつきつつ仕事用のスマホをみる。が、誰からも連絡はきていない。

 慌てて私用のスマホを取り出す。
チカチカと点滅するライト、伏せられた通知内容にさらに慌てる。
私用とはいえ、数少ない友人はみんな俺と同じような仕事をしていて昼間に連絡なんてほぼしない。両親も健在だが生存確認される程度だ。
 そうなってくると思い浮かぶのは、最近婚約したばかりの彼女である。俺と同じでモノグサなやつだから連絡なんて滅多にしてこない。でも重要なことを唐突にポツリとこぼすから油断ならないのだ。

 少しくらいなら、とメッセージを確認する。

『熱でて早退した』
『夕飯は食べてきて』

 おい、おい。何を言ってるんだこのおバカは。
特大のため息をついて、考える。自宅の常備薬の有無、冷蔵庫の中身、病院いったのか、熱はどれくらい、症状は。
 ぐるぐると彼女のことだけが頭の中を駆け巡っていく。

『絶対定時で帰る』
『待ってて』

 もう俺も熱でたことにして帰るか。
画面端の時刻をみてまた悩む。仕事は後輩に投げて上司は日頃の借りを返してもらおう。彼女の方が大事だもん。

 また女々しいと睨まれるのだろうな。


              【題:待ってて】

2/13/2024, 12:44:23 PM