望月

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《子供のままで》《失われた時間》

 旅の途中、マリアは不思議な少年に出会った。
 どこか遠くを見つめるその瞳には、十二かそこらの見た目とは違って落ち着きのある。
「あなたってとても落ち着いてるのね」
「それは私が五世紀を生きてきたからだろうね」
 少年のそれを冗談と受け取って、マリアは小さく笑う。
「あら、そうなの?」
「そうだよ、お嬢さん。随分昔に不老不死になってしまったから」
「お伽噺に出てきそうだわ」
 少年も、マリアの信じていないだろう言葉を咎めたりしなかった。
「不老不死というのは、夢見るだけで十分な代物だけれど」
「そうかしら? 憧れちゃうわよ、やっぱり」
「よくよく考えてご覧なさい」
 諭すように少年は言う。
「老いを感じる時間も、訪れる死を恐れる時間も私には訪れないのだよ。二度とね」
「それっていいことでしょう? 感じたくないものだから」
 そうかな、と少年は首を傾げる。
「子供のままで在るが故に、失われた時間というのもあるのさ」
「……何それ」
 よく分からない、とでも言いたげなマリアを置いて少年は歩き出す。
「いいかい、大人になることは悪いことではない。また、やがて死ぬというのも」
「……そんな訳、ないのに」
 いつか分かるさ、と少年は言い残し去った。
 両親を亡くしたマリアに、果たして、どこまで通じただろうかと思いながら。

5/14/2024, 9:30:43 AM