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『あなたに届けたい』

 手首から流れ落ちる赤い血を見つめながら、オレは戦いのことを思い出していた。
 あの時のオレは、ドラゴンの聖衣を纏ったことで負けるはずがないと思っていた。最強の拳と盾を持つ自分はこの場にいる誰よりも強いと自惚れていた。
 だが、所詮は井の中の蛙であったことを思い知らされることになった。対戦相手の星矢に、拳と盾を砕かれたばかりか、決して破られることがないと思っていた昇龍覇の隙を突かれてオレは敗れた。
 傲慢の代償は己の命となるはずだったが、そんなオレを救ったのもまた星矢だった。

 眼の前には、大きく破損して命が失われた聖衣がある。
 命を失った聖衣を蘇らせるには、大量の血液が必要だという。それにオレの血を使うことに何の躊躇いもなかった。
 本来なら、オレはとっくに死んでいたはずだったのだ。それをあいつに救われた。なれば、あいつのためにオレの命を差し出すのが道理というものだ。
 一度落とした命だ。今更惜しくなどない。
 星矢は、大怪我を押してこれから厳しい戦いに向かう。あいつのために、蘇った聖衣を届けてやりたい。
 聖衣を蘇らせる代わりに、オレの命は失われるかもしれない。だが、例え何があろうと聖衣は必ずお前に届ける。
 だから、待っていてくれ。

1/31/2024, 12:04:05 AM