海月 時

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「タンポポっていいよね。」
突然そんな事を言う彼女。俺はどうしてと聞いた。
「目立たなくても、力強く生きている所。」
この理由を聞いた時、俺の胸は張り裂けそうだった。 

彼女との出逢いは、病院での事だった。俺は定期検診のために、よくここに訪れていた。待ち時間が長く退屈だったので、中庭に行くことにした。そこには彼女が居た。彼女は病衣に身を包んで茂みに腰を下ろし、タンポポを眺めていた。その表情は優しさに包まれていた。気付いた時には話しかけていた。彼女は見ず知らずの俺に優しくしてくれ、俺達はすぐに仲良くなれた。そして、彼女の病気について知った。
「もう長くないんだ。だから、花を植えようと思って。」
彼女の思いに涙が出そうだ。そして俺は気付いた。俺は彼女に恋をしている。彼女にとっては迷惑な話だろう。だからこの思いは胸に閉まっておこう。その代わりに俺は、突拍子もない事を口にしていた。
「それなら、俺は君の花を守りたい。」
その言葉を聞いて彼女は、笑顔で涙を流していた。

彼女の死から数ヶ月が経過した。彼女と植えた花、タンポポは彼女の墓の前で生い茂っていた。彼女もこんな風に生きれたらいいのに、なんて何度も考えた事だ。きっと俺はまだ、彼女の事が好きだ。しかし、どれだけ思いが強かろうと状況は変わらない。世界の残酷さに嘆き続けた。それでも、タンポポは綿毛に成長し、風に乗って飛んでいく。知らない場所で力強く生きていく。
「眩しいな。」
そう呟いた時、俺は泣き崩れた。

俺は今日、綿毛のように風に身を任せて、彼女の下に飛んで逝った。

5/14/2024, 4:05:48 PM