未知亜

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ㅤ言いたいことだけ言って本部長が出ていくと、小さな会議室の湿度はぐっと増した気がした。空調機の低い音だけが沈黙を埋めている。
「今更予算不足とか、意味わかんないっすよね」
ㅤ入社二年目の栗田が、空気を変えるように声を張る。
「考えんの遅すぎっつうか」
「ですよねぇ」
ㅤ四年目の桃井が同調するが、声に力がなかった。
「ごめんねみんな。自分の業務もあるのに、今まで——」
ㅤ何か言わなくてはと思ったものの、うまく言葉が続かない。プロジェクトの解散命令にショックを受けているのは私も同じなのだ。
「いや、梨村さんなんも悪くないですから」
ㅤ栗田の言葉にメンバーも「そうですよ」などとひとしきり頷く。「ありがとう」と応じながらも、何か出来ることはなかったのかと後悔だけが浮かび、会話はまた立ち消えになった。
「……悔しいです」
ㅤ苦しげに絞り出された声が、沈黙を割る。その場にいた全員が垣野内を見た。
「悔しいです、とても」
ㅤ彼女は下を向いたまま、もう一度ゆっくり繰り返す。泣くのを堪えているのが、誰の目にも明らかだった。
ㅤプロジェクトのメンバーが定期的に顔を合わせるようになって半年。それは、彼女が初めて自分の気持ちを表出した瞬間だった。その場にいる皆の心に、静かな情熱とも呼ぶべき温度が、じんわりと高まり燃える音を確かに私は聞いた気がする。



『静かな情熱』

4/18/2025, 8:44:46 AM