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「雨の匂いがする」

私がそういうと彼はきょとんとした。この人には伝わっていないのだなと思って、それから話は膨らまなかった。別に、それだけが理由ではないけれど彼とは別れてしまった。

また別の人と付き合って何度目かのデートの日。その日は、雨が降っていた。土砂降りではなかったが止むまでの間、近くのカフェで人気のスイーツを食べながら、二人で談笑していた。ふと、窓の外を見た彼が言う。

「雨、上がったみたいだね」
「ほんとうだ」
「そろそろ出ようか」

私たちは席を立って外へ出た。

「雨の匂いがする」

言おうとして出た訳ではなく、ほとんど無意識に口から出ていた。彼には聞こえていないだろうと思っていた。

「そうだね、俺この匂い結構好きなんだよね」

まさか返事が返ってくるとは思っておらず彼を見た。笑顔で彼の差し出してくれた手を握って、私たちは雨上がりの道を歩き出した。

「雨上がり」

6/1/2025, 12:34:28 PM