ハクメイ

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そこは海の底だった
沈没した船に乗っていた宝箱ぐらいしか、辿り着けなさそうな場所。
深海の魚達が悠々と泳ぎ、太陽の光など届かない場所。
その海の底に、一人の少年が横たわっていた。
勿論意識は無いし、恐らく死んでいる。
昆布の様な長髪が魚につつかれ、ボロボロの服の隙間に小魚達が潜り込んでいた。
死体になったそれを、誰かが持ち上げた。
人魚の様な動きで、それを抱えながら上へ、上へと、優雅に泳ぐ。
二つの人影はやがて、砂浜に辿り着いた。

「げほっ!ぐっ…はぁ、はぁ。」
死体になっていた少年は、咳き込みながら起き上がる。
そこは砂浜で、奥へ手前へと、動き続ける波が音を立てている。
少年は水を含んだ長い髪を引きずりながら、辺りを見渡そうとした。
「やっと起きたか人間!」
うわ!。と少年は驚きの声をあげ、そちらを見やる。
その姿を見て、更に少年は声を上げる。
「なによ、変な声あげちゃって。」
「いやいや…は?おまえ…何者だ!?」
少年が指差した、声の主。
頭部に黒いネコミミと、ふにゃふにゃと揺れる、黒くて細長いしっぽ。
縦に伸びた猫の瞳孔が、じろりと少年を見る。
分類を決めるのであれば、彼女は"ネコ娘"だった。

「全く、人のことを指差すなんて、礼儀がなってないわ!折角助けてあげたのに。」
少年は我に帰り、その言葉に反論する。
「助けた?ふざけんな!俺は死にたかったんだぞ!?助けてなんて言ってない!!」
「はぁぁ?うるっさいわね、そんなの知らないわよ!
というか、海で死にたかったの?」
少年は黙り、海を見つめる。
既に太陽が、地平線に吸い込まれそうだった。
「母さんが、海が好きだったんだ。だから、ここで綺麗に死にたかった。」
「……そう。なら、このまま生きなさい。」
「どういうことだ?」

二人の影が、長く伸びる。
誰もいない砂浜に、二人以外の気配が現れてしまった。
「アンタ、"海の眼"に目をつけられたのよ。
だから、綺麗な死に方なんて出来ないわ。」
呆気に取られる少年と、真剣な顔をしたネコ娘。
二人に近づいたのは、悍ましい何かだった。
黒くて、触手があって、足音が複数聞こえて、眼がたくさんあって。
少年がそれを認知する前に、ネコ娘がその手を掴む。
「行くわよ!綺麗に死にたいんでしょ!?」
少年はこくりと頷き、砂浜の上を走った。

お題『海の底』×『ネコミミ娘』

1/20/2026, 12:42:38 PM