安達 リョウ

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「ごめんね」(同棲生活③)


今年のクリスマス・イブは急激な冷え込みにより、列島は近年稀に見ぬ大寒波に襲われていた。
暖房をフル回転させているのにまあ寒い。
カーテンだけでは暖かさが逃げて凌げきれない、窓に目張りでもしてしまおうか?

いや、でもきっとあいつは嫌がるだろう。
見栄えが悪くなる、と口を尖らすのが容易に想像できる。

「おーい、生きてるか?」

お昼前、部屋を覗くと彼女は大人しくそこに横になっていた。
大丈夫などと抜かしていたのを、半ば強引に寝室へと監禁した甲斐はあったようだ。

「ほらみろ、高熱じゃねーか」

ベッドの脇に座ると、彼女が黙って差し出した体温計を見て俺は顔を顰めた。

「何が大丈夫だよ、無理するから酷くなってんだろ」
「………うん。ごめんね」

………。しまった。いつもの調子が口について出てしまった。
風邪で気落ちしている以上に、今日という日の意味が殊更彼女を落胆させているのは充分承知していたはずなのに。

「そう暗くなるなよ。風邪くらい誰でも引く、こんなに寒けりゃ尚更な」
「でも今日はイブだし、それに」
―――彼女が泣きそうになる。

「誕生日なのに」

「………ああ。そうだな」
「お祝いしてあげられないどころか、看病までさせてしまって」

ほんと、ごめんね。

いつになくしおらしい彼女に、不覚にも胸が高鳴ってしまう。
いやいやこれが本来の彼女なのだ、いつもの気の強さは仮の姿なのだ。
………うん。そう思いたい。

「イブも誕生日も毎年来る。それよりしっかり治してくれよ」
「………うん。ねえ、」
「ん?」

「何か焦げ臭くない?」

……………………。

しまったぁぁぁ!!
彼が脱兎の如く階段を駆け下りていく。

―――数分後、持って来た鍋に焦げついた“おかゆ”らしきものと共に平謝りする彼に、彼女は体を揺らして可笑しそうに笑った。

………看病して、心配して、お昼に何か栄養のあるものをと奮闘して作ってくれる素敵なひと。

最高のイブをありがとう、神様。
元気になったらしっかり彼の誕生日をお祝いすることをここに約束します。


END.

5/30/2024, 1:22:01 AM