「私の日記帳」
まだドキドキしている。遅くなったことを母に咎められても平気。さっきまで一緒だった高橋くんのことでいっぱいで他のことなんて何も受け入れられない。引き出しから日記帳を取り出す。小学生6年生のときに始めた日記は3冊目になった。背伸びして買った大学ノート。
きっかけは『アンネの日記』を読んだことだった。始めのうちはその日あったことを書き連ねるだけのつまらないものだった。けれど高橋くんを好きになって、高橋くんのことばかり書いた。中学に進んで会えなくなってからは高橋くんにお手紙を書く体で書いていた。
そして、最近登場するようになった青い文字。高橋くんを妄想彼氏にして綴ったもの。事実じゃないから文字の色を変えた。一緒に遊園地に行ったところで青い文字は終わっている。
スマホが震える。高橋くんからのメッセージだった。さっき交換したばかりのID。
「これからよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
「敬語?」
「あ、そうだね」
「またね、モモ。新学期になったら一緒に駅に行こう」
「うん行こう。またね、高橋くん」
「違う。翔吾」
「翔吾くん」
「くんはなし」
「翔吾」
「じゃあな」
スタンプが苦手だと言ったことをちゃんと覚えていてくれたんだね。
「翔吾」
口に出して一人で足をバタバタしてあわてる。急展開すぎて頭がついていかない。高橋くんは西高だと言っていた。私の通う高校とは逆方向だ。同じ電車で通えたらいいのに。
昨日までは妄想するだけだったのに急に現実になって、それだけでも大変なことなのに、贅沢すぎる。今日のことを忘れなうちに残しておこう。そう思って黒いペンを持ったけど、何も書けない。
8/27/2024, 7:15:49 AM