『大事にしたい』
「《暑さ寒さも彼岸まで》その言葉を我々は信じて今日まで耐え難きを耐えてきたのです!
それなのに、なんですか! 明日はもう彼岸の中日になろうというのに、未だ熱中症警戒アラートが発令されている! これをどうお考えなのか教えていただきたい!」
私は握った拳を机に叩きつけた。痛い。
「そう言われましても、このところの気候変動には貴方がた人類が大きく関わっているのではありませんかな。その責をこちらに押し付けないで頂きたい」
彼岸(秋)がヒンヤリとした目つきでこちらを睨む。その冷気を環境に還元してくれ。
「我々は約500万年前から存在している。だが、高温化はここ十数年での急激なものだ。我々だけが原因ではあるまい」
睨み合うばかりで、先程から話し合いは遅々として進まない。
「まあまあ、私共彼岸の期間は7日間あるわけですから、彼岸明けまで様子を見るということで如何でしょうか」
彼岸(春)がのんびりした口調で言う。
「お前はいいよな、酷暑に比べれば命の危機を感じさせるほどの気温ではないのだから」
拗ねた口調で彼岸(秋)が言うのは気安さからか。
この辺りが治めどころであろう。
「分かりました。それでは彼岸明けまで様子を見ることにします」
私の言葉に場の空気がほっと緩む。
「しかしながら、私たち日本人が金科玉条の如く毎年口にしてきた言葉《暑さ寒さも彼岸まで》は、大事にしたいのです」
よろしくお願いします、と彼らに頭を下げた。
9/21/2024, 7:41:35 AM