「んばあ! あはは、ビックリした? 」
ピクリ、耳が突然の声の正体を探して動いた。
四方八方何処を探しても、声の正体は見つからないと分かっていながらそっと辺りを見渡す。
彼が現れたのは、ほんの1か月前。
自分は宇宙人だと主張する、とても美しい顏をした頭のおかしい人だった。少し暗い木陰の中で、薄茶色の髪の毛をゆらゆらと風に遊ばせながら私を見てにっこりと微笑んでいたから、思わず会釈をしてしまったのが始まり。
「おや。君は、私のことが見えるんだねぇ」
見えないことが当たり前だと言いたいみたいにそう呟いた彼は、星空みたいにキラキラと光る紫の双眸を私に向けていた。それなのに、私を見ていないのように思えたから不気味に感じ、少し後ずさる。
「あはは、私が怖いかい? 」
「……いいや。怖くは、ないです」
悲しそうに目を伏せる、その表情があまりにも孤独な少年のように見えたから慌てて怖くはないと嘘を吐いた。
そうしたら、またにっこりと笑ってふわふわと体を浮かし始めた。
「え"?!!! 浮かし始めた?!! 」
「おや、これは吃驚」
くすくす、耳の奥を擽るような柔らかい笑い声に絆されて、彼の体が浮いていることがぼんやりとしか感じられなくなった。というか、どうでも良くなった、の方が正しいのだろう。
「私は、宇宙人だからね。これくらいは朝飯前なのだよ」
「は、はぁ……」
「今宵この国では、仮装をして楽しむのだと聞いてねぇ。これは私も行かなくては、とね 」
宇宙人だろうが、宙に浮こうが、今日なら「凄いなぁ! 」という笑い話で終わると思っているのだろうか。笑い話で終わるのは現実的に理解出来るような事だけで、現実的にも科学的にも処理できないような現象は、凄いなぁの言葉の代わりに悲鳴を与えられるとは知らないのだろうか。
知らないんだろうな、宇宙人だもんな……。
「行ったとしても、私の姿が見える人間など居ないと思っていたんだけれど……あはは、君は私と相性がいいようだね。嬉しいな」
そう言った彼はそのまま、ふよふよと浮いて空へと飛んで行ってしまった。
何だったんだ。分からないが今日は帰って即寝よう……と帰って即寝た次の日から、奇妙な声が聞こえてくるようになった。
それは、私があの日のことを忘れようとした瞬間に。
「まさか、私のことを忘れようとしているのかい? 」とか、「あはは、そういえば地球の侵略日が決まったよ」とか。
地球の侵略日って何だ、とは思ったけれど、やっぱりまだ疲れが残ってるんだろうなと布団へダイブする日々が続いた。
しかし、ここ1週間その声がパッタリと聞こえなくなったのだ。
そりゃあ、聞こえなくなった最初の三日は声に悩まされる必要が無くなり健やかに、ふんふんと鼻を鳴らして歩くくらいには上機嫌だった。何なら存在すら忘れていた。
しかし四日、五日経つと私の心にも変化が起きた。
何だか、そう。明確な言葉にするのは癪なんだが、少し寂しいのだ。一人暮らしの女性の寂しさを唯一紛らわせていたのが、自称宇宙人で顏が美しいだけの、頭のおかしい男(しかも声だけ)ってのが本当に、嫌だ。私まで頭がおかしいと思われるんじゃないかっていう焦りと不安で苦しくなる。
しかも、見てくれだけで焦がれているような、そんな軽い女になってしまっているのも、何だか嫌なんだ。
もう一度だけ会ってあの耳の奥を擽るような笑い声を聞けば、私の心は落ち着くのだろうか。
◆
心細く、満たされない日々が続く。
少し不安になる。頭のおかしい人だと思われても構わない、そう思うくらいには心が疲れきっていた。
ぐらぐらと、地面が揺れる感覚がする。
ああ、遂に体も疲れ切ってしまったのだろうか。地面が揺れてるように感じてしまうほど、疲れてしまったのか。あの自称宇宙人と出会ってから何一つ上手くいかない。
「おや。人の……いや、宇宙人のせいにするとは罪な人だ」
ピクリ、耳が声の正体を探して動く。
何時も四方八方探していても見つからない声の正体が、今は目の前にふわふわと浮いていた。
「宇宙人……さん」
「そんな他人行儀ではなく、そうですね。気軽にダーリンと」
は、と声を出そうとして、二酸化炭素しか出ない私を他所に彼は細長い指を顎に当て考える素振りをする。前に会った時にはなかった角? 触覚? が頭から生えている。しかし、それでも美しいのだから、美しさは得だなと場違いなことを思った。
「私はあの日、君に恋をしたんだ。そして、君も私を恋焦がれるようになった」
そうだろう? と有無を言わさぬような声の圧に、反射的に頷いてしまう。私の答えなど聞いてもいないだろうが、事実焦がれてしまっていたのは事実なのだ。こんなにも、私をおかしくさせたのなら、しっかりと責任を取って貰いたい。
「私、貴方のこと好きになってたみたい。悔しいけれど、それが事実」
「それは嬉しいねぇ。君のためにこの地球を侵略することを決めたんだ。だから、ほら一緒に行こう」
そういえば、まだ地面が揺れている感覚がする。
そうか。私の体が疲れたのじゃなくて、地球が宇宙人によって侵略されているから、戦おうと揺れているのか。
そっと、細長い指を私に差し出す彼の後ろには大きな月と、それに対抗するかのような大きなUFOが地球に向かって飛んできていた。
目の前の美しい顏を持つ宇宙人が、その摩訶不思議な光景をどこかの国の物語かの様な光景に見せる。
吸い込まれるかのように、差し出された手に自分の手を重ねる。思ったよりも冷たい手のひらに驚く暇もなく、自分の体が浮き始めた。
「わ、私も浮けるんだ」
「私のハニーになったからね」
あはは、と懐かしく思える笑い声が、私の耳の奥を擽った。
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ハッピーエンドです。
ハッピーハロウィンです🎃
ハロウィンって人間界も、妖怪とか人外とか人間のまま本能を解放する奴とか有象無象の化け物たちが放たれる日なので、本物が混じっていても分からなそうだよな、と思う日々です。
もし、地球外生物が、地球に下見に来るなら今日ですよね。会いたいな〜
そこで、運命の人と出会うとか、なんかいいなと思います。しっかり侵略しちゃうのが、人間とは違うところだと思いますけど。
人外って、人間に対して物珍しいって感情だけで動くので食べたり殺しちゃったりとか、あると思うんですよ。その中で愛情が芽生えちゃったら、どうなるんだろうって。
人間からしたら人外は怖いから一生脅えて過ごすんですけど、人外は人外で愛情の伝え方が分からず、2人して拗れまくるのが好きですね。最後に人外が人間を殺めてしまって、闇堕ちとかしちゃうのも全然好きです。
一途で、手に入れたら絶対に何がなんでも離さなそうな、そんな執着質な人外たちが好きです……
すみません、人外好きが出てしまいました…。
ハロウィンは人外好きに取っては堪らない日でもあります。皆さん、決して人には迷惑をかけず怪我をさせず、自分も他人も楽しめる、そんな良きハロウィンを過ごしてください🎃
10/30/2023, 3:28:31 PM