【入道雲】
絵の具で描いたように真っ青な空に、もくもくと白い入道雲が浮かんでいる。あれは犬の顔、あれは天を駆ける竜。河川敷に寝転がって流れていく雲を眺めていれば、不意に視界に影が差した。
「こんなところで寝てたら、熱中症になっちゃうよ?」
僕を見下ろす君の白い頬に、玉のような汗が伝っている。日差しに弱いくせに、帽子も何も被らずに外出するんだから困り物だ。
「君こそ、ちゃんと日差し対策しろって何度言わせるの」
身体を起こし、被っていたキャップを君の頭にぽんと被せた。清楚な君の服装には似合わない無骨なキャップを、君は嬉しそうにはにかんで両手で抑える。
「ふふっ、ありがとう」
幼い頃からずっと、一人の時間が好きだった。入道雲を眺めて想像を巡らせる時間が、何よりも楽しかった。だけど。
「買い物?」
「うん、コンビニにアイスを買いに行こうと思って」
「付き合うよ。途中で倒れられたら困るし」
そんな憎まれ口を叩きながら、君と横並びで歩き始める。ぷかぷかと浮かぶ入道雲を眺めても、今は10分後に君と並んで食べるであろうソフトクリームにしか見えなかった。陳腐極まりない発想を、だけど悪くないなって感じる自分がいるのはきっと、君の隣にいるからだ。
君と共にいる幸せを噛み締めながら、キャップがなくなって明るくなった視界に目を細めた。
6/30/2023, 3:48:39 AM