おきた

Open App

最近、皆が私をバカにするのです。ただの小さな土竜なんかが、お天道様に惚れるだなんて。身の程知らずだと言うことは、これでも4年ほど生きて参りますので、承知の上ではあるのです。人間の方からすると、生まれて4年だなんて喃語を卒業したばかりの、ほんの小さな子供のように感じられるかも知れませんが、土竜からすると、もういい歳なのです。

長い時を生きて、私は、この暗くて湿った土の中にすっかり飽いだ。私達の先祖が地上を捨て、進化を繰り返す過程で私達は良く見える目を失いました。どこへ行こうとも何も見えずひたすら進むだけの日々。前も後ろも上も下もありやしません。

私が特異なだけで…普通土竜は物を考えたりなどしないのです。口を開けば腹が減った、危険、安全、交尾だの………彼らは何故ここに居るのか、何故生きるのか、死ぬとは何か、存在とは何か……考えないからこそ、閉鎖的な土の中でもおかしくならずに済んでいるのです。思考するから狂ってしまう。人間におかしい個体が多いのは、おそらくそういう事でしょうと私は見当をつけております。私も例外ではなく、物を考える私にとってこれまでの生は地獄のような日々でしたが…あの日、あの光を見てから私の心には、一つの気持ちが芽吹いたのです。

あの日、ついつい地上近くまで穴を掘り進めてしまった。私には猫や鳶に対抗する術もありませんから、急いでまた地下に潜ろうとしました。そうして足を上げた時、うっかりつま先が地面に触れて土が崩れ落ちたのです。小さな穴がぽっかり空きました。

私達はとびきり臆病なので、驚いてしばらくの間息を潜めて様子を見ていましたが、特に変わった様子も見れないのでおそるおそるその穴に近付いてみたのです。私は目が良くありませんから、随分近くまで行って初めて、穴から一筋の光が見えているのに気が付きました。白く黄色い光の筋を見て、私は輝くと言うものの美しさを知りました。ですが、こんな美しい光に暗く湿った土の中はそぐわないと思い、心苦しくも私はすぐに穴を塞いでしまったのです。

それからというもの、私の心はすっかりお天道様に持っていかれてしまいました。この事をこぼしでもしますと、またバカにされてしまうので言いませんが……私もそう長くは生きないでしょうし、今生の土産にお天道様をこの目で拝んでみたいと思うのです。そうすれば、私の一生もそう悪くなかったと思える事でしょうから。

………………

あなたは聞き上手だな。
おかげで予定より長く話してしまいました。
や、申し訳ない。お疲れではありませんか。
…それなら良かった。
……もし、生まれ変わりがあるのなら、あなたと同じ蚓になりたい。いつでも天道様を拝めるなんてこの上ない幸せだろうし……飽いだと言いましたが、土の中は私の故郷でもありますから。

…ええ、では、そろそろ行って参ります。
おそらく帰っては来ないでしょうが、お元気で。
あなたも、自分の生き様を好きに決めて良いのですよ。私のように。…………………それでは、また。

4/14/2023, 9:33:54 AM