G14

Open App

「これをくらえ、魔王!」
 勇者の剣が、魔王の体を貫き、魔王は大量の血を吐く。
 長き戦いであったが、ついに勇者が勝ったのだ。

「まさか、これほどまでとはな……」
 魔王は息絶え絶えの状態で、勇者を睨みつける。
「お前の野望はここまでだ。命乞いは聞かん」
「ククク、勝ったつもりか!」
 命の灯は今にも消えそうだと言うのに、魔王は不敵な笑みを崩さなかった。

「お前はもう終わりだ!」
「そうだな、我はもう死ぬ。だが!」
 もうすぐ死ぬとは思えないほどの魔王気迫に、勇者は思わず後ろに下がる
「全て邪神様がいれば済むこと!」
「何、まさか!」
「準備は万全ではないが、仕方あるまい。この体に邪神様を下ろす!」
「やめろ!」
 勇者の叫びと共に、剣でもう一度魔王を突きさす。
 だが魔王は痛みにうめくものの、邪神復活の儀式を続けた。

「もう遅い! 邪神様。この地にご降臨下さい。我が願いを聞き遂げてください。この地に破壊と絶望を!」
 その瞬間、魔王の周囲に邪悪な魔力が満ち、空間が歪み始める。
 そして――

 何も起こらなかった。



 何も起こらなかった。


 何も起こらなかったことに、魔王はキョトンとした顔をする。
「あれ?邪神様?」
 魔王は自分の体を調べるが、どこにも邪神の気配はない。
 失敗したか?
 魔王が不安になり始めた時、勇者が笑い始めた。

「だから、やめろって言ったんだ」
「貴様、まさか……」
「そうさ、この魔王城に来る前に、懲らしめてやったのさ。最終的に逃げられたけど、あの様子じゃあ、もう千年くらいは再起不能だろう」
「馬鹿な。邪神様に人間が敵《かな》うはずなど……」
 魔王には信じられなかった。
 邪神は神であり、人間が太刀打ちできる存在ではない。

「そうだな、力では敵わなかった。力ではな……」
「ではどうやって」
「言葉だ」
「言葉?」
「ああ、悪口と言う言葉をな」
 魔王は信じられないとばかりに、勇者を見る。

「温室でぬくぬくと育てたのが間違いだったな。
 悪口に対する耐性がまったく無かったぜ。
 ここぞとばかりにとびっきりの悪口を言ってやっら、泣いて逃げた」
「邪神様が……泣いて……」
 魔王は絶望し、がっくりと膝をつく。

「最後に言い残すことはあるか、魔王……」
 勇者の剣が、魔王の首元に突き付けられる。
「……一人で死ぬのは寂しいな」
「安心しろ、他の仲間もすぐ送ってやるよ」
「いや、それには及ばん」
 魔王の体に魔力が集まる。
「こいつ、自爆を!」
「ふはは、油断したな勇者よ。貴様も地獄に道連れだ!」
「くそ」
 勇者は自爆に巻き込まれまいと距離を離す
 しかし間に合わない。
「では邪神様、あとは頼みました。どうか世界に破壊と絶望を――」
 そして魔王は、魔王城ごと勇者を巻き込み自爆した。

 ◆

 魔王城が跡形もなく吹き飛ぶ様子を見ていたものがいた。
 それは異空間に逃げ込んだ邪神であった。
 邪神は毛布にくるまりながら、勇者と対峙したときの事を思い出し震えている。
 そして勇者の死ぬところを見れば少しは楽になるかと思い、魔王との戦いを見ていたが、少しも心が動くことは無かった。
 勇者との対決は、邪神の心に決して癒えぬ傷を作ったのだ。

 おろらく、あの爆発で勇者は死んだだろう。
 だがそれが何になるのだろう?
 たとえ勇者が消えようとも、この心の傷は癒えはしない。

 魔王は世界を破壊せよと言った。
 だが、それが何になろう?
 世界を滅ぼしたとて、この心の傷は癒えはしない。

 だが魔王城がモクモクと煙を上げているのを見て、少しだけ心が揺らぐ。
 それが何に由来するものかは知らない。
 だが邪神はこれだけは言わねばならぬと、口を動かした。

「爆発オチなんてサイテー」

4/16/2024, 10:28:05 AM