喜村

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 叶わぬ恋だと思っていても、スタートするのが恋物語。
 例えばテレビの世界で輝くアイドル。
例えば身近な存在のお父さんやお姉ちゃん。
例えば同性の人。
今でこそ同性との恋は成就しやすくなったけれど、さすがに身内とは恋仲にはなれない。

 私はお父さんに恋をした。実の父親ではない、血も繋がっていない。お母さんが新しく結婚をしてできたお父さんだ。
年もお母さんとよりも私との方が近いくらい。
 どうしてお母さんと結婚したんだろう、私と先に出会っていたら、可能性は私ともあったのではなかろうか。

 身長が高くて、爽やかに笑って、清潔感があって、おしゃれで。
 私が初めて一目惚れをした。
この恋物語はスタートしてしまったのだ。
出会った瞬間、お母さんから新しいお父さんよと紹介された瞬間から、この恋物語は終了してしまっていたのに。
 私は、二人の前から逃げ出すように自室へと移動した。
 きっと二人は、新しいお父さんの誕生にショックを受けた娘、と見たかもしれない。
 私は自室の扉に背中を預けてしゃがみこんだ。
「……好き、かっこいい……」
 部屋に一つだけ、私の声がなった。あとは自分のバクバクの心臓の音だけがやけに大きく聞こえただけであった。


【恋物語】

5/18/2023, 10:12:31 AM