天津

Open App

星空の下で

星空の下で寝そべっていると、なんだか自分が矮小に感じられる。顕微鏡のステージに載せられているような、なにか大きな存在から覗き込まれているような、そんな茫漠とした圧があって、対照的に自分が縮こまっていく。実際、針で空けた穴のように小さく見える星の一つ一つが、途方もなく大きい。
そして、私自身も、途方もなく小さい。
私には友人がいた。十年来の友人だった。
彼女は病みがちだった。常に気にかけていないと壊れてしまいそうな、危うい子だった。
私が上京してからは、スマホでやり取りをしていた。彼女は通話を好んだ。私は時間を作ってそれに応じた。しかし就職してからというもの、私は次第に通話を断るようになった。物理的な多忙さと、脳内の多忙さが押し寄せて、正直他人に構っている暇はなかったのだ。
気づくと彼女からの連絡は途絶えていた。こちらの呼びかけにも返答がなかった。私は彼女の実家を知っていたから、電話をかけた。
彼女は入院していた。
良くない男につかまって、傷つけられて、どうかしてしまったようだった。
私は、何かを塗り込めるように仕事に没頭した。働いて働いて働いて、私はある日職場でふらついて倒れた。ついでになにかの衝撃で棚が倒れてきて、私は下敷きになった。
真っ白なベッドで目が覚めて、現実に冷めた。私はもう二度と働けないと思った。
私は実家に帰った。
仕事を辞めたことを伝えると、母は烈火の如く怒った。責任感だとか、見通しの甘さだとか、そういう指摘は至極当然のもので、すべて受け入れるつもりだった。しかし、まさか人格否定まで口にするとは思わなかった。それも毎日毎日、顔を合わせるとは詰ってくるのだ。
私は母を憎んだ。
家にいると気が滅入るので、私は毎日犬のシロと散歩に出かけた。エサと昼食を持って、一日中外を歩き回った。公園でシロと遊んでいる間は、何もかも忘れることができた。
ある日も私はシロと散歩をしていたが、運の悪いことに母に出くわしてしまった。街中だった。母は、私がのうのうと犬を散歩させていることが非常に気に食わないようで、人目を気にすることなくくどくどと怒鳴った。私は怒りと恥ずかしさで頭が破裂しそうになった。その時私はふと、去っていく母の頭上にある大きな電光掲示板を見て、あれが落ちればいいのにと思った。右手の指に、不思議な重みを感じた。
すると、ちょうどその電光掲示板が剥がれるように浮いて、落下して母を押し潰した。即死だった。
私は家に閉じこもった。電光掲示板を引っ張るような感触が、指に生々しく残り続けた。振り返れば、あの感触には覚えがあった。きっと、職場で棚の下敷きになったときも、掴まろうとして何かを引いたのだ。
電光掲示板の下にいたのは、母だけではなかった。一人が大怪我をし、一人が今も意識不明だという。その罪悪感は、心配そうに寄り添うシロに指を舐められても、拭い去ることはできなかった。
生活についても考えなくてはならなかった。私を責めつつも、母は最低限の生活環境を提供してくれていた。今後はそれを自分で回していかなければならない。
そんな折に、電話がかかってきた。友人が病院で亡くなったという知らせだった。なぜ、とは聞けなかった。死ぬ病気でもない彼女が亡くなる理由は、そう多くなかった。
受話器を置くと、後悔の念が胸の奥底から溢れ出してきて、たまらず部屋の壁を蹴った。戸棚がガタガタと音を立てて揺れた。音は止まなかった。街ごと揺れ続けているのだった。私は気づいた。
気分が重くなればなるほど、強い引力が生じるのだ。
私はシロを殺した。
冷ややかな夜風が、丘の上を過ぎていった。
星空は無数の目のようだ。あらゆる物事が丸裸にされていくようで、いたたまれなくなる。
空に、何かが光って消えた。流れ星だろうか。だとしても、すべてを投げ出した私には、もう願うことはない。
空に手を突き出して、星を掴んだ。腕を下ろすと、見えない糸が指に手応えを伝えた。
もうすぐ、街に無数の星が降る。

2023/04/06

4/6/2023, 9:33:08 AM