死期が近い人間の傍に降り立って最期を看取った後に魂を回収する、この一連の流れが死神の仕事。必ずしも黒いローブをはおり、三日月型の鎌を手に持っているわけではなく、姿形は変幻自在。幼いこどもの姿で活動するやつとか、なんなら愛くるしい犬猫の姿でこの世に来るやつだっている。とは言っても必ずしも人前で姿を現し、正体を明かすわけではなく、基本的に人の目には映ることなく淡々と仕事をこなすのみ。なお、例外として稀に死を迎える少し前に俺たち、死神の姿を認識する人間もいる。
俺の目の前で清潔そうなベッドに身を預けている人の良さそうな老婦人、彼女は例外に当てはまる人間らしい。
「あなたはだぁれ?どちら様かしら?」
「死神。」
「ああ、迷子になってしまったわけではないのね。...お迎えに来てくれたのかしら。」
彼女は俺を怖がるわけでもなく寂しげな、それでいてどこか安心したような返事をした。
「怖くないので?」
「ええ、ちっとも怖くはないわ。早く連れて行ってくれるのであれば、それほど嬉しいことはないわ。」
「...もう一度くらい、子どもとかお孫さんの顔とか、せめて友だちや同級生、なんなら知り合いとかご近所さんの顔を見たいとかあるんじゃあ。」
不思議そうな表情を向けられた。そりゃそうだよな。死神だっていう男がなんで自分のことを気遣うようなことを言うのだろうって、言葉にされなくともなんとなく思っていることが分かる。彼女は小さな笑みを携えながら、しかし寂しそうな声色で、
「...悲しそうな顔は見たくないもの。どうせならこう、嬉しそうな顔とか満面の笑みを目に焼き付けた後に、お別れを告げる前にひっそりと息を引き取りたいわ。」
体も思うように動かないからね、と付け足して俺のことを真っ直ぐと見据えた。
「それにあの子たちの顔を見ることはできたわ。しかもとびきりの笑顔をよ。また会いに来るからねって約束が果たせないのは、心苦しいけれど。それでもいい終わり方でしょう?」
だからお願いね、と俺の目を見て告げた後に眠るように安らかな目を閉じた。
生気のない色をした、でも満足気な微笑をたたえた顔だった。
3/15/2026, 9:39:28 AM