他人の鼓動なんて、触れでもしなけりゃ分からない。
そしてそんな関係性は、全ての人が築けるわけではないもので、だからこそ幼い頃から隣にいることが当たり前になっている彼の鼓動は、他のどんなものよりも手放したくないものだった。
「君はいつも熱いねえ」
首筋に手を添えて、脈動を感じる。
彼は常に自分より体温が高い。
トク、トク、トク。
触れた指先で一定のリズムを刻む鼓動。
トク、と鳴るたび、自身の指先も熱くなっている気がする。
腕を組んだまま眠る姿に、愛しさが込み上げる。
普段の険しい顔つきが幾分和らいだその表情に、思わず手を伸ばしたのは数分前。
働きすぎの感のある彼が、ほんの僅かな時間でも安らぎを得ているのなら良いけれど――。
トク、トク、トク。
彼の鼓動が伝わるたび、再認識する。
「君が隣で生きてるから、生きていけるんだ」
END
「熱い鼓動」
7/30/2025, 3:45:59 PM