僕の中には怪物が住んでいる。僕の喜怒哀楽の全てに干渉してくる、黒くてしゃがれた声の禍々しい怪物が住んでいる。
「それってイマジナリーフレンドって事?」神妙な顔つきで、前の席に座る彼女は聞き返した。「わからない。ただ、僕はいつもその怪物のご機嫌を伺いながら生活してる。だから、自分の言動に自信がない。何よりそう感じてしまう僕自身が怖くてしょうがない。いつか消えてくれるといいのだけど。」
僕は俯きながら呟いた。人にこの話を話すのは初めてだった。自分でも不思議だ、僕は何故彼女にこんな話をしてしまったんだろう。夕暮れに染まる教室はやけに静かだった。放課後の運動部の掛け声が遠くから聞こえてくる。たまたまだ。たまたま放課後の空気を楽しみながら、教室で読書している僕に、彼女が声をかけてきた。彼女と雑談しているうちについ口が滑ってしまった。
言うべきじゃなかった、と言う後悔が全身を包む。
彼女は少し考えてから、言葉を紡いだ。
「その怪物が嫌いなの?」「だって、変じゃないか。」「…でもその怪物君はきっと君が好きだよ。心配性なんだよ。」「そんな事考えたことなかった…。」「話してくれてありがとね。私は変じゃないと思うよ。この世でただ1人の君だもの。うまく言えないけど、色んな人がいるんだもの。心に天使や悪魔、怪獣なんでもいていいんだよ。」
彼女は朗らかに言った。
彼女の笑顔が純粋に綺麗だと思った。
心の中で怪物が喉を鳴らした。
するとあら不思議、怪物の黒い皮膚から徐々に光が溢れ出し、満足そうに光った。
(よかったな、ずっと欲しかったんだろ?自分が存在することをただ受け入れてくれる何かにずっと飢えていたんだろ?)
「………っ」
僕は込み上げてくる感情の波に飲まれながら、涙を堪えた。
その日から、怪物は心の中でいつも嬉しそうに笑う。自己否定を辞めた瞬間に怪物は…怪物じゃなくなったのかもしれない。
1/19/2025, 10:49:25 AM