“未来”
子猫を拾った。
厳密に言えば"職場の同僚が通勤途中に子猫を拾った"が正しいのだが、その同僚に何かと言いくるめるられて気づけば俺が子猫を片手に帰宅するはめになっていた。
在宅ワークの彼女がネットワークトラブルで家に転がり込んできた話をついうっかり話してしまった数日前の自分の浅はかさを少し恨む。
猫どころか生き物さえも飼ったことがないと辞退を申し出たが、誰も都合の悪いことは聞き取れないらしい。
飼ったことないなら一緒にお店に行って一式買おうぜ!と皆で仲良く定時退社して買い物をして、今に至る。
インターホンを鳴らすと、ケージの中の子猫もナーと鳴いた。
「にゃあん!」
「おかえー……?」
「ただいま、ごめん猫拾っちゃった」
ドアが開いて彼女が顔を出した途端、俺より彼女より先に子猫が元気よく挨拶をする。
彼女の目線は完全にケージに向いていて、背中に冷や汗が流れる。昔むかし何かの流れで犬派か猫派かって話をしたがその時はたしか彼女は犬派だったんだよなあ。
ドキドキしながら彼女の顔色を伺うと、彼女はスンと澄ました顔をして、とりあえず入れとドアを大きく開けてくれた。
「で、コイツのご飯とかはどうするの?」
「それはさっき一式買ってきたから大丈夫だと思う」
「ふうん……」
しげしげとケージの中を眺める彼女と、一生懸命彼女に向かって話しかけている子猫。……めちゃくちゃ良いな。と早くも俺は子猫との生活に楽しみを見出していた。
「さっさと手洗ってきなよ」
「……あ、うん」
洗面所に向かう俺の後ろで、猫に向かって名前は?とか歳は?とか真面目に聴いてる声がする。子猫も子猫で聴かれるたび律儀にニャアニャアと返事をするのがおかしくてつい笑ってしまう。
このままずっと彼女と子猫と三人で暮らす幸せな未来が見えた気がした。
6/18/2024, 8:25:14 AM