真岡 入雲

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【お題:涙の理由 20241010】【20241011up】

「へっ?」

何?何が起こってるの?
誰か教えて!

ついさっきまで、顧客との打合せをしていた。
まぁ、顧客と言っても2年前まで付き合っていた元彼で、今は後輩の旦那だったりするんだけど。
えっ?やりにくくないかって?
全然、平気。
元彼なのに何故かって?
うん、まぁ、普通なら顔を合わせるのも〜ってなるのかもしれないけど、付き合ったのもお互い何となくだったし、好きだーとか、愛してるーとかそういう雰囲気ではなかった。
どちらかと言えば、仲の良い異性の友達で、そういう事してみたら意外と相性が良かったから付き合ってただけ。
あ、フシダラとかそう言うのは聞き飽きてるから、言わないでね。
元々は飲み友達で、お互いいい年齢だったし相手がいないなら〜って軽い感じだったからね。
で、とある日の居酒屋デートの時に後輩ちゃんも連れていったんだけど、まぁ、その時2人はお互いビビビッっと来たらしくて、元彼からはその日のうちに別れて欲しいって言われた。
断る理由が私にはなかったから、あっさり別れたのよね。
未練?ないない、そんなものこれっぽっちも無い。
後輩ちゃんにも謝られたけど、なんて言うかセフレみたいな関係だったからさ、そんな気にする必要無かったんだって、本気で。
その後2人はトントン拍子で進んで、後輩ちゃんはついこの間産休に入った所なのよ。
さっきもその話をちょっとしてたんだ、無事産まれてくるといいねって。

それで今の私の状況ですが、男性に抱かれております。
あ、男女のってやつじゃなく、男性の胸元に包み込まれている?感じ。
男性と表現しているのは相手の正体が不確かだから。
声と話し方から行くと、たぶんあの人だと思う。
けれど今顔を確認できない状態なんだよね。

「宝生、どうした。大丈夫か?」

あ、宝生っていうのは私の苗字で、私の名前は宝生 マリと言います。
あ、まぁそれはいいんだけど⋯⋯、耳元での美声はやめて欲しいデス、背筋がゾワゾワするぅ。
でもこれで確定した、この男性は須藤さんだ。
企画部のエースで次期課長と言われてる人。
めっちゃイケメンでイケボで女子社員の人気No.1の人。

「あのっ、っう」

ダメだ、痛い、痛くて目が開けられない。

「宝生、あいつか?さっき話してたあいつのせいなのか?」
「ちがっ、うぅっ」
「じゃぁ何で泣いているんだ?頼む宝生、涙の理由を教えてくれ」

涙の理由?
正直に言っていいのかな?どうしよう⋯⋯。

「宝生、俺はお前が泣いてるのは見たくないんだ」

⋯⋯え、ナンデ?
ってか、ダメだ、痛すぎて目が開けられない。
涙もボロボロ出てくるし、このままだと化粧がとれて顔が大変なことに⋯⋯、そして須藤さんのスーツも大変なことに。

「あのっ、須藤さんスーツが⋯⋯」
「気にするな。そんな事よりお前の方が大事だ。何で泣いているんだ?俺には言えないのか?」

いや、言えなくはないけど。
ってか、どうして須藤さんに抱きしめられてるの私は。
須藤さんは同じ課の人で、先輩で色々と教えてもらったけど。
でもここ、元彼の会社の近くだし、何で須藤さんがいるの?
それに、須藤さんってこんなキャラだったかな?

「誰だ?誰に泣かされた?俺が締めあげてやるから遠慮なく言ってくれ」

ええい、仕方がない、正直に言うよ!

「ゴミが」
「五見?五見って名前の男なのか?」

何故、そうなるんですか。

「風で目にゴミが入ったんです」
「わかった、メニゴミだな⋯⋯ん?目に、ゴミ?」
「はい。私ハードコンタクトしていて、ゴミが入るとすごく痛くて」
「誰かに泣かされたわけじゃ⋯⋯ない?」
「はい。ただ、両目にゴミが入ってしまって、目が開けられないので道の端にいただけです」
「⋯⋯⋯⋯あー、ゴメン、俺の早とちりだった、かな?」
「いいえ⋯⋯つっ」

あー、ダメだ。目ぇ開けられない。

「宝生、どうすればいい?」
「えっ?」
「目にゴミが入ったんだろ?俺がとってやるか?」
「あ、いえ、土埃なので、コンタクトを外して洗えば⋯⋯」
「わかった、洗うんだな。任せろ」
「へっ?⋯⋯きゃぁ」

待って待って待って、なんで私お姫様抱っこされてるのー!
でもでもでも、目が開けられないのが悔しい。
今の須藤さん、超絶カッコイイはずなのに見れないなんてー!

結局、さっきまで元彼と打ち合わせしていたカフェにお姫様抱っこで出戻った私は、須藤さんから解放され、店員に手をひかれながらレストルームに案内された。
目を閉じたまま店員にお礼を伝えて、痛くて開けない目をこじ開けてコンタクトを取り出しやっと一息つけた。
コンタクトを洗い、目に異物感が無くなるまで常備持ち歩いている目薬で土埃を流し、再びコンタクトを装着。
鏡の中の自分は随分と目が赤くなり、化粧はボロボロになっていた。

「はぁ、このカフェもう使えない⋯、お気に入りだったのになぁ」

とりあえず、ボロボロの化粧を落として手持ちの化粧品でどうにか顔を作る。
手持ちと言っても、ファンデーションと口紅、アイブロウ、アイライナーくらいしかないのでできることは限られたけど。

「うーん、こんなもんかな」

化粧をしていないと、やっぱり、心もとないな。
化粧は女の武装とはよく言ったものだ、なんて考えながらレストルームを出ると、須藤さんが待っていた。

「須藤さん、ありがとうございました」
「もう、大丈夫?」
「はい、お陰様で」
「じゃぁ、今日はこのまま病院に行ってから帰ってね」

うん?

「課長には連絡しておいたから。直帰させるって」
「あの⋯⋯」
「念の為⋯いや、俺のために病院行ってくれる?じゃないと俺、心配で仕事が手につかないかも」
「え、あ、はい、行きます、病院」

あー、お願いだから耳元で囁かないで下さいぃ⋯⋯。
その後須藤さんと別れて、行きつけの眼科に行き診てもらい、特に問題なかったことを須藤さんに連絡して家に帰った。
そしてその日、ずっと須藤さんが耳元で囁いていて眠れず、ベッドでのたうち回っていた私は、翌日目の下のクマを須藤さんに見られて、酷く心配されたのでした。


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(´-ι_-`) ちょっと願望詰め込んでみました(照)

10/11/2024, 8:35:09 AM