「……あの、さ」
口にしたかった言葉は音にならずに時間だけが通り過ぎていく。
彼に告白すると決めてからたくさんたくさん考えたのに。
「っわたし……ね」
心臓がうるさい。コンクールのときでもこんなにドキドキしなかった。
「…ゆっくりで、ゆっくりで大丈夫だよ」
落ち着いた優しいテノールが耳に入ってくる。
それと同時にあぁ…やっぱ好きだなって思う。
「わたし、君の歌がすごく好きなの」
目の前の彼は目を見張る。
そんな意外なことを言っただろうか。それでもさっきと打って変わって、私の口はよく動く。
「初めて聞いたときから、落ち着いた優しい声だなって思ってたんだけどね、放課後歌を口ずさんでいるときに君の声が聞こえたの。」
「…よく、ぼくだってわかったね」
私は首を縦に振りながら続ける。
「だって、すごく優しい歌だったんだもの。だからわたしきみの歌がすごく好きだよって伝えたくって」
今日呼んだの。そう言うと彼は少し照れ恥ずかしそうに、そしてなぜかちょっとすねたように口を開く。
「そう直球で言うくせやめなって言ってるでしょ…でもありがとう。嬉しい」
じゃあ帰ろっかと声をかけようとすると彼がわたしの手をそっと掴んだ。
「まって。ぼくもきみのピアノの音がすごくすき…だよ。君みたいにふわふわしてあったかくてずっと聞いてたくなる」
今度はわたしが赤くなる番だった。
「あ、ありがとう。嬉しい…です」
ありきたりの言葉しか頭に浮かばなかったけど、本当に嬉しいと思った。
「でも、それだけ…?今日ぼくを呼んだのはそれだけを伝えたかったの…?」
私は思わず目を見開く。彼は少し頬を赤く染め私の目を見ていた。
「…それ、だけ…デスヨ」
「絶対ウソ。きみ、ウソ下手くそなのになんでウソつくの」
ジト目で睨まれるが、今日のわたしのHPはもう残り5くらいだ。これ以上反撃を食らうと死んでしまう。
「逆に何があると思ったの…?」
次は彼が言葉に詰まる番だった。
視線を彷徨わせたあと、決意を決めたようにわたしの目を見ていった。
「告白…してもらえるのかなっておもった!!」
清々しいほどの回答に私はあっけにとられた。
「え、あ、うん、え、なんかごめん」
「ちょっと!!ぼくが振られたみたいじゃん!まだ何も言ってないのに」
「振ってないふってない振ってない!!」
テンパって勢いよく否定しすぎた。気まずそうに顔を上げると目の据わった彼が言った。
「好きなタイプは僕みたいな声の人って言ったよね?」
「はい、いいました」
「結婚するなら甘やかして叱ってくれる人がいいって言ったよね?ぼくこの2年間君を甘やかしてでも叱ってたよね?」
「はい、甘やかしてもらいマシタ」
「音楽好きな人がいいんだよね?ぼく歌うの好きだから一緒に演奏できるよ」
「うん、しってます」
「あと他には何が必要?ぼくは君からしたらとんでもなく優良物件だと思うんだけど」
割と自信満々に言い切る彼に小さく拍手を送ると怒られた。解せぬ。
「今、君に告白したら君はオーケーしてくれる?」
彼が放った言葉に私は一瞬で赤くなった。それはほぼ告白だ
「………う、ん」
彼は一つ呼吸をすると言った。
「ぼくは、ずっと君といたいと思ってます。君を見れば可愛いって思うし、ピアノを弾いてる姿は綺麗で独り占めしたいけど全世界に見てほしいとも思うし、家族のはなししてるときはぼくもその中に入りたいって思うし、他の男子と楽しそうに喋ってるとちょっと嫉妬します」
一呼吸で告げられた愛の言葉に顔を赤くさせることしかできない。
「でも、誰より大切にするし、君のこと最優先で生きるし、甘やかすし叱るし今は言葉にしか出せないけど一生一緒にいる覚悟でそばにいるから、ぼくと付き合ってほしい……です」
最後だけ自信がなさそうに子犬みたいな一面を向けられたわたしの心臓はまた、ドクドク致死量並に活動している。どうしてくれるんだ、ときめき死してしまったら。
「わたしも君の全部が大好きなので、最優先にできるよう最善を尽くしますし、大切にするし、幸せにします。えっと、プロポーズ?待ってます。だから、これから末永くおねがいします。」
照れてはにかみながら言うと彼は赤くした顔を手で覆ってしゃがんだ。
「反則でしょ……」
「こっちのセリフです」
目があって笑いあったこの瞬間のことをわたしも彼も一生忘れないだろうと、そう思った。
#言葉にできない
4/11/2024, 10:38:31 PM