すべて物語のつもりです

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 あの夢のつづきを、とか細い声だった。彼女がどんな夢を見たのかわたしには分からなかった。彼女はいつも夢見がよくないから、今日も例外ではなくそうなのだと思ったけれど。あの夢、に彼女が縋っているように見えて、きっとさぞかし素敵な夢だったのだろうと思った。
 それでも彼女は泣いていた。はらはらと涙を流して、頬を伝ったそれらは、二人で一つを共有する枕を濡らした。
 大丈夫だよ、と抱きしめてみる。彼女の白い肌は血管までもが透けて見えそうで、わたしが抱きしめた跡すらも鮮明に残してしまいそうで、触れるのが怖い。けれど、その恐怖よりも、彼女がそのままどこか行ってしまいそうなことの方が怖かった。ベッドから起き上がった彼女を引き留めるようにして抱きしめる。
 大丈夫だよ、なんて確証はない。それでも、わたしはそれしか言えない。
 彼女はなにも言わず、無理にわたしの腕を逃れようとせず、ただベッドの縁に人形のように座っていた。
 しばらくして、手の甲が濡れた。

1/13/2025, 7:56:48 AM