燈火

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【永遠なんて、ないけれど】


始まりはきっと私の一目惚れだった。
別に、顔だけを好きになったわけじゃない。
爽やかな笑顔とか、分け隔てない優しさとか。
そういう日常に惹かれていった。

どうしても近づきたくて同じクラブに入った。
何度も話しかけて、少しずつ親しくなった。
君から話しかけてくれて、友達だと認められた。
もっと、もっと親しくなりたいと思った。

告白した日、付き合えるとなって嬉しかった。
浮ついた気持ちで笑顔の私に、君が告げる。
「他の子と遊んでも口出ししないでね」
女好きな素顔を、見ないようにしていた。

私が知らなければ浮気の事実はないも同然。
浮気の現場から目を逸らし、噂に耳を塞ぐ。
君からのプロポーズは夢のようだった。
「お前だけ」なんて君らしくない言葉。

『病める時も健やかなる時も、
 富める時も貧しき時も、
 死が二人を別つまで、貞操を守り、
 愛し敬い慈しむことを誓いますか?』

あの誓いだけは反故にされないと思っていた。
でも君はやっぱり、一途になんてなれない。
口先だけの謝罪で許されると思っている。
私だけを愛せないなら。「仕方ないね」

明らかに安堵の表情を見せる君。
違う、違うよ。そういう意味じゃないの。
包丁の柄を握らせ、こちらに刃を向ける。
「殺して?」死が二人を別つなら。

9/29/2025, 6:44:59 AM