「きらめき」
『着いた』
君は笑顔で、嬉しそうに僕を呼んだ。
僕は同じくして君の背中に向かって言った。
『着いたね』
君はちょうどよい石を椅子代わりにして、座る。
僕も、その隣に座った。
目の前には山と、大きな月が映っていた。
『山に登りたい』
そう言いだしたのは君だ。
僕の用事も聞かず、一緒に行こうといつも言う。
僕は山に登りたいわけがないと言うのに。
でも、嫌だ。そうは言い出せなかった。
だって。
『今日が、最後だから』
そう、悲しそうにいう君を見ていたら。
そんな風には言い出せなかった。
『凄いね』
君はおどけた様に、笑った。
当たり前だ。僕はこんなにも荷物が少ないのだから。
流石に最小限のものは持ってきた。それだけだった。
肩掛けカバンをさげた、友達の家に遊びに行くレベル。
君は何が面白いのかひとしきり笑った後、『行こうか』そう、優しく笑った。
太陽は、西に傾いていた。
初めて登る山は、予想以上に険しかった。
ところどころにある大きな岩。
ある程度舗装されたとはいえ、急な上り坂。
僕はゼイゼイ、ハアハアと息を巻きながら山を登り続けた。
当然、話す余裕なんてなかった。
なのに君は楽しそうに、話しかけてきた。
『どう? 初めての登頂は』
『ねえ、あれカブトムシじゃない?』
『すごいなあ。この樹』
いつもより口数は少なかったものの、心底羨ましかった。
こんな時でも、笑っていられる君が。
辛い時でも、楽しそうにしている君が。
山頂に着いた。
静かに、水を飲む。なにも考えられなかった。
疲れた。帰りたい。そんな思いだけが頭を渦巻いていた。
暗かった。太陽は、何処を向いても見えなかった。
『ねえ、あれ』
数分ほどした後、君は静かに指を差した。
疲れていたにもかかわらず、自然と、視線が動いた。
星が見えた。綺麗な星。
静かに二人で感嘆の声を漏らす。
ゆっくりと被りを振ると、どこを向いても星が見えた。
満天の星。
山奥で見る星はいつもとは違って見える。
君と、いつもより大きな月の光に照らされる。
星屑たちは、小さく、地に落ちてくる。
静かに、次々と。
『今日はペルセウス座流星群が見れるんだ』
そう君と、行こうと誘われた。
本当に、肉眼で見ることができる。
キラキラと、一瞬で。落ちては消えていく。
そっと、それを君と、君の隣で見続けていた。
『流れ星は、空気の層に屑が落ちてくるから見える』
いつかの君の声が聞こえた。
一緒に勉強していた時だったか。もう、いつか分からないほど遠い日のこと。
『綺麗だよ』
あの日山に登って君と見た流星群。
もう、一年もたってしまった。
君とは、それ以来あっていない。
もうすぐ、あの流星群が見える。午後10時。
君はこの空を見ているだろうか。
一つ。星屑が流れてきた。
きらめくさまを見せびらかすように。一つ。二つ。
このきらめきが来年。君と。
見れるといいな。
そう、思った。
9/5/2023, 8:25:08 AM