『暗がりの中で』2023.10.28
暗がりの中で、荒い気遣い、喘ぐような声が口からもれる。体はじっとりと汗ばんでいて、無意識で繋いだ手が熱い。
相手からも同じような感情が伝わってきていて、嬉しいようなそうでないような。
ビクッとこわばる体。動きが止まり、先へ進めない。
早く、と急かしても彼は動かない。こんな状況で焦らすなんて意気地のない男だ。こちらが軽く刺激を与えると彼は、声を上げた。
「なにすんだ!」
顔を真っ青にして、彼は器用に怒ってみせている。
「さっさと行けよ。ビビッちょるんか?」
「うう。もう無理だってぇ。お前が先に行けよ」
「年下を先に行かするなんて、意気地のない男たい」
こうなることは、予想はついていたので、仕方なく先頭に出る。ついでに手も振り払ってやろうと思ったが、思ったより強く握られているので、諦めることにした。
今、俺たちはお化け屋敷ロケの真っ最中だ。くじ引きで俺とお化けが嫌いな彼とが同じチームになり、順路を進んでいる。とにかく彼はビビりなので、かなりの鈍行となっており、なかなか前に進めない。
「手ぇ、離すなよ」
はたから見ればかなり男らしいセリフに聞こえる。しかし実態は、怖いので手を離さないでください、という意味だ。
手を繋いでいるだけならまだ許せるが、大きな体でしがみついてくるものだから、うっとうしくてしかたがない。
これが美女ならいいのにと思いながら、背中で悲鳴を上げまくる彼を引き連れて、ゴールへ向かって進んだ。
10/28/2023, 1:18:04 PM