名無しの夜

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 冷えた風が渡る、丘の上。

 月のない夜空にちらほらと光る埃のような星々を、彼は飽きもせず見上げている。


「いつまで、そうしているの」

 呆れたように、母親のように、彼女が口を開く。
 立ち尽くして疲れたのか、全身を軽く揺らしながら。


 そんな彼女に視線だけ向けて、彼は済まなそうに微笑んだ。

「流れ星を、探しているんだけどね」

「——流れ星……」


 声の調子で、彼女の呆れの度合いが上がったのがわかる。


 そんなの見つけてどうするの。


 言わずとも、彼女の顔にはそう書かれていて、彼は苦笑する。

「流れ星に祈ると、願いが叶うんだって」

 大昔の書物にそう記されていたと、彼は内緒話をするように声をひそめた。


 彼女は溜息をつく。

「またそんなことを——もう真偽はどうでもいいけど。
 で? そんな言い伝えにすがってまで叶えたい願いって、何よ」


「言ったら、叶わないんだけど……。
 でも見つからないし、いっか」


 軽く肩を竦め、彼はまっすぐ彼女に向き直った。


「君の心が欲しいって、お願いしたかったんだ。
 君ともっと心を通わせたい。同じ気持ちでいられるように、って」


「——はぁ……?」


 真摯な眼差しをもって伝えた彼の言葉は、彼女には響かなかったらしい。


 彼女は大きく息を吐いてかぶりを振った。


「心って——所詮、記憶と事象に対する感情発露と、その蓄積じゃないの?
 えーっとつまり、私のそれを同期すれば、君の望みは叶うのかしらね……?」


 そんな機能あったかしら、そもそも私の記憶データベース深度はどの程度なのかしら、と彼女は頬に手を当てて思考を巡らせる。


「うーん、中枢システムにアクセスしないとわからないわね。
 ——とりあえず、帰りましょ」


 うん、と彼は頷いて彼女に従う。

 軽くスキップでもしそうな彼の足取りに、彼女は首を傾げる。


「何で、そんなに嬉しそうなの」
「……君の心に、もっと近付けそうだから?」


 はぁ? と彼女は再び眉根を寄せて。


 ほんっと、ヒューマノイドって意味わかんない、と——

 それでも彼につられたように。
 彼女も楽しそうに、口角を上げて呟いた。

12/13/2023, 4:15:17 AM