花畑。ここは花畑。なんの花が咲いているのかなんてわからない。ただ、山奥にあった、地球が作った秘境。私は、偶然、そこにたどり着いた。恋人と共に。
「……きれい」
私の恋人、中也は言った。ここは木が生えておらず、少し開けており、地面いっぱいに咲き誇った花があった。風が吹くたび、さらそよと揺れた。中也は見惚れていた。目の前の風景に。何せ、今は夜であった。雲一つなく、満月の強い月明かりが、星々を照らす。そんな空模様が、さらに神々しくこの景色を完成させる。中也はその景色を、目をいっぱいに開けて眺めていた。
『そうだね。』
私は、中也に向かって言った。目の前の景色を眺めながら。私はギュ、と中也の手を握り、肩を寄せた。中也はそれでも景色に夢中で、目をキラキラと輝かせていた。そんな中也に、私もまた、目を奪われた。かわいい。私は、中也に目だけでなく、心も奪われてしまった。
月明かりに照らされた私と中也。中也の髪が、月明かりに照らされて白く輝く。星々や月に囲まれ、いったいどれくらいの間静かに咲き誇ったのかわからない花たち。そこに、ぽっとたどり着いた、私たち。この神秘的な風景を前に圧倒されている。ちなみに、私と中也はこの山で遭難している訳だが、何食わぬ顔でウロウロ彷徨っていた所、偶然、ここにたどり着いたのだ。だから、こうやって景色を眺めている場合ではないのだが、それをも忘れ、見惚れてしまう景色が、ここにはあった。
『………中也。』
私は中也に声をかけた。
「なんだ?」
中也はやっとこっちを向いた。少し赤くなった鼻先や、さっきまで瞬きもしていなかったのに潤っている瞳が、少女のような印象を与える。さらに、私の方が身長が高いので中也は自然と上目遣いになる。中也の瞳に映った星空は、とても綺麗だった。私は中也に言った。状況が状況なために、これが最期になるかもしれない。死ぬかもしれないというのに、私はとても穏やかな気持ちであった。私は、その穏やかな気持ちのまま、自身の奥底の、本当の気持ちを込めて、言った。
『愛してるよ。』
その言葉に、中也は顔を真っ赤にして、目を潤ませた。それから、中也は私にギュッと抱きつき、小さな声で言った。
「………俺も、あいしてる。」
次の瞬間、風がここ一体を吹き抜けた。冷たく、凍えるような風だったが、その風が散っていた花びらを空高く、舞わせた。それが美しくて、私は中也をそっと、抱き返した。この大自然に、中也を取られるような気がしてしまった。
12/30/2025, 12:23:06 PM