シオン

Open App

 その日の終わり、プロムは自室でため息をついた。
 実技の練習は慣らすために一週間に一回にするべきだと提言したのは彼であった。それは実際に言葉通りの意味合いも存在したが、デウスの側近の業務が本業である彼がサルサに付きっきりになることは決して好ましいことではない、と考えていたからであった。無論、デウスからは『我のことを気にする必要はないぞ』とは言われていたが、そんな一言でプロムが言葉通りにする訳がなかった。
 だが、先月にウィルが何度か休みにした、という事実はプロムに取って引っかかる事案ではあったのだ。それが彼の元同僚からの仕事の手伝いを投げかけられたからという理由であってもサルサの教育係を第一に考えず、ほいほいと頼みを受け入れてしまうという所に苦言を呈されたことは紛れもない事実であった。
 もちろん、彼に対して手伝いを要求した者たちはデウスから直々に罰を受けたと言えども、押しに弱いことや頼みを直ぐに引き受けてしまうところは教育係として目に余る。
 そんなわけで、プロムは仕事合間に彼らの様子を見ていたわけだったのだが……。
「……あいつは本当に一年でサルサを一人前にできるのか……?」
 そんな結論を彼は導き出してしまったのである。
 今日の勉強もいつものものと変わらずに、座学が中心だった。そのことについての異論はない。座学にも覚えなきゃいけないことは様々あり、アリアの後輩としてのレベルを目標としているのであれば、座学はこの世界の者の中でトップレベルにならなくてはならないレベルの物が求められることになる。
 が、内容はまだまだ初歩的以前の話であった。
「……人間界でいうところの初等教育にも入り切ってない。常識の勉強をいつまで続けるつもりなんだ、あいつは」
 プロムは頭を抱えながら唸る羽目になり、書類仕事中に覗いていたことで、デウスから『どうした。休憩にするか?』と尋ねられる事態に発展したのであった。『大丈夫です』とうわ言のように呟いたプロムに対してなおも心配そうなデウスに迷惑をかけぬよう、プロムはそれ以上覗くのを辞めたのだった。
「…………成果が出なかったら、どちらも殺すことになるんだぞ……」
 プロムの言葉は静かな部屋に馴染んで消えていく。
 それは誰も、デウス以外は知らない秘密であった。プロムも本当は知らないはずだったのだが、デウスの側近として内緒で教えてもらった事項である。
「……危機感が足りんが…………それを直接的に伝えることもできない」
 プロムは頭を抱えながら呟いた。

2/8/2025, 9:59:41 AM