なぎさ

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「あと、スマイルを3つ」
「えっ?」

某ファーストフード店でのバイト中。
ある男性がさらりと述べたので、一瞬気づかなかった。
本当にこんなこと言う人いるんだ。
学生がふざけて頼むのは聞いたことがあるが、
今私の眼の前にいるのは、四角い眼鏡を掛けたスーツ姿のサラリーマンだ。
仕事帰りだろうか。
彼の視線は、ずっとスマホの画面に注がれている。
聞き間違いか。
私は注文内容を繰り返す。

「ポテトのLサイズをひとつ、烏龍茶をひとつ、スマイルを3つですね。」
「はい」

聞き間違いじゃなかった。
本当にこの親父はスマイルが欲しいというのか。
しかも3つも?
この変態親父め。
私は袋にドリンクの型紙と品物を少し雑に入れた。

「お待たせしました。ありがとうございました。」

私は笑みを一切浮かべず、声のトーンだけを上げて品を渡した。
彼はそそくさと品を受け取ると、店を出ていった。
レシートにはきちんとスマイル×3 0円と書いてやった。
するとすぐ彼は店に戻ってきて大声でこう言った。

「すみません、スマイルが入っていないのですが。」
「は?」
「スマイルはないのですか?」
「提供時のサービス的なものですので。」
「え、お菓子みたいなのじゃないんですか?」

あまりに彼が驚くので、私も一瞬疑心暗鬼になったが、
いやそんなもん0円で提供出来るほど経済的余裕は日本にあるわけない。
彼は自分の間違いと周りの視線に気づいたのか、酷く顔を赤くして帰っていった。
日本は今日も平和である。

2/8/2024, 1:31:41 PM