#25 『記憶の海』記憶の海に沈む、人魚の面影。潮騒が遠い故郷の歌を奏でるように、かつて揺らめいた尾ひれの感触が今はもうない足に蘇る。陸の温かさに憧れ、泡立つ波を越えて得た人の姿。けれど、祭り囃子の喧騒の中、ふと見上げる満月にはあの深淵の静けさが恋しくなる。乾いた喉に響くのは、忘れかけた潮の香り。人になった人魚は、記憶の海をそっと懐かしむ。
5/13/2025, 10:06:16 AM