目が覚めたらそこは、病室だった。
青白い蛍光灯が僕の脳を刺激する。
「やっと起きた、」
泣き晴らしたのだろう、目が赤く蚊に刺されてしまったように膨らんでいる。
ぎゅっっと骨が軋んでしまうぐらいの力で僕の左手をにぎってくる彼女は高く結んだポニーテールを揺らしながら僕の目を見つめる。
「本当に良かった、よかった、、」
安堵の声を漏らし、嗚咽する。
当の僕はなぜ病室にいるのかわからずこんなにも自分を心配してているくせにブラックコーヒーを飲んだ時のような表情を浮かべてしまう。本当に申し訳ない。
「そっか、あのね、」
困惑、と書かれた僕の顔を見ておおよそ理由を察したのだろう、彼女は続ける。
「ヒロくんは交通事故に遭ったの。信号無視のトラックとぶつかっちゃった。一時期は危なかったんだよ」
そうか。僕は不慮の事故で意識を、、
「よかった、戻ってきてくれて」
また涙ぐむ彼女はポニーテールがよく似合っていて、目が二重でくりくりしている。かわいい。くりくりした目を見つめているとなんだか水晶みたいで、吸い込まれそうだった。吸い込まれそうになっていると一つの疑問が生まれた。
この女の子は、
一体誰なのだろう。と。
なぜ僕の名前を知っている。
ほんとうに、ほんとうに誰なのだろう。
女の子経験はゼロなはずなのに。
事故のせいで記憶が飛んでいる?
僕は頭をかきまわしてみる。
記憶はきちんと処理されている。名前も性別も出身もすべて。
今度は記憶を辿りながら僕は考えを巡らせる。回想する。
ミックスジュースみたいにかき混ぜる。
でもそのどこにも目の前の彼女は混ざっていない。含まれていない。1%も。
ではあなたは誰なのだ。
「ねえ、ヒロくん。退院したらヒロくんの大好きな苺パフェ食べに行こうよ」
くりりとした目が僕の目とぱちり。と絡み合う。
「あ、でも韓国料理もいいなー。ヒロくん辛いのも好きだもんね。」
うーん、と彼女は考え込む。
うーん、と僕も考え込む。
僕は苺パフェと辛いものがどうしようもないぐらいに
大好きであるが、誰にもその内を明かしたことはなかった。
8/2/2023, 1:47:07 PM