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『幸せ』

 幸せとは一体なんだろうか。愛か?お金か?地位や名声?あるいは自由?
 駆け落ちして生活苦に喘ぐ恋人たちは幸せなのだろうか。孤独な億万長者は不幸なのだろうか。肩書き目当ての人間に囲まれる権力者は幸せなのだろうか。自分で何者かになるしかない、選択の重さを背負った若者は不幸なのだろうか。
 世の中にはいろんな人がいる。十年後の不安で命を絶つ人がいれば、今日のパンを得られずに死ぬ人もいる。その死を悼んだ数万人が献花に訪れるような人もいれば、孤独死の末に骨まで土に還る人もいる。生まれて来なければよかったと叫んで死ぬ人がいて、もっと生きたかったと死の淵で嘆く人がいる。
 世の中はままならなくて、誰だって隣の芝生は青い。自分には得られないものばかり欲しがって、手元にある誰かが喉から手が出るほど欲しいものには見向きもしない。失って初めて価値に気付くことの傲慢さに、果たして何人気が付いているのだろう。
 与えられたカードで勝負するしかないのだと、どこかの誰かが言った。与えられるカードは千差万別で、ロイヤルストレートフラッシュのような素晴らしい手札があれば、役どころかハイカードすらパッとしないゴミのような手札もある。引き直しはできない。努力はそれをどこまで補正できるのだろう。
 努力は報われるとは限らない。報われた人が努力しているとも限らない。世の中にはどうしようもないものが結構あって、運もその一つだったり、そうではなかったりする。たとえば溢れるほどのピアノの才能を持った青年が、絵画の道で成功できずに心を病むように。百年に一度のバスケの才能を持った少女が、陸上競技で挫折しスポーツから離れるように。自分の適性に気が付かなかったり、適性と好きが違ったり。あの子と自分が逆だったらよかったなんて、そんなことは無数にあって。世の中は理不尽で、どうしようもなくて、結局のところ、幸せは自分で見つけるしかないのだ。週末のちょっと高いディナー、ボーナスで買う新しいバッグ。昼過ぎまで寝る休日、昔の仲間と青春時代に帰るフットサル。くだらない話ができる友達、授業がだるいと言える環境。酔っ払って道で寝ても生きていられる治安、そこら中に自動販売機が設置できるモラルの高さ。雨風を凌げる場所で寝られること、明日のご飯の心配をしなくていいこと。死にたいと思うほど生きられたこと、死にたいと言える相手がいること。
 何が幸せかは、あるいはその人が決めるのかもしれない。人の数ほど幸せがあって、人の数ほど不幸があるのだろう。

4/1/2023, 5:16:14 AM