かるた

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「……?」

廊下を歩いているとピアノの音が聞こえた。
足を進めると、段々と音の形もクリアになって来た。
どうやらホルストの組曲「惑星」の1つ、第4曲の【木星】のようだ。

壮大ながらも繊細で、少し物悲しさも感じさせる旋律が心地よい。
音楽室の前に立ち止まり窓から中を覗いてみると、後輩のあの子が弾いていた。
扉の横の壁に背を預けピアノに耳を澄ます。

【木星】が終わり、今度はドヴォルザークの「新世界より」から第2楽章【家路】、そのあとはエルガーの【愛の挨拶】。

まだ練習中なのか、時折間違えて弾き直してるのもなんだか可愛らしい。
このまま黙って立ち去っても良いが、せっかく素敵な「挨拶」を聞かせてもらっているし、と頃合いを見て扉をそっと開けた。

「あ、」
「やあ」
「先輩、いつからいたんですか……!?」
「平和への想い、故郷の懐かしさ、素敵な挨拶、音で想いが伝わってくる演奏だね」
「あ、あはは……」

僕の存在に驚き立ち上がったものの、全て聞いていたことに気づいたのか力無く椅子に座った。

「……」
「……!あははっ、ごめんごめん」

数秒の無言ののち、君は絞り出すように【猫ふんじゃった】を弾き始めた。



「君の声がする」2025.02.15

2/15/2025, 11:28:18 PM