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「子供のように」

午前1時
ようやく仕事を終えて帰路に着く。
辺りは夜の闇に閉ざされて、街灯の明かりのみを頼りに進む。

学生時代、あれほど夢見ていたデザイナー。
華やかな世界に憧れて努力した。まあまあな大手に受かって、晴れて広告業界に就職。俺には輝かしい未来が待っている!と信じて、押し付けられる雑用も、身に余る業務にも全力で取り組み、忙殺される日々を今日まで耐えてきた。でもそんな努力が報われる日は、ついに来なかった。

ポツポツと雨が降ってきた。雨足は次第に強くなる。俺は鞄を漁り、折り畳み傘を出そうとした手を止める。雨が、頬ばかりを濡らす。これは雨なのだ。自分に言い聞かせる。だって、そうでなければ、24にもなって大の男が仕事に耐えきれず涙を流すなど、
「みっともねぇなぁ…」掠れた声が口からこぼれる。
同時に心臓がぎゅうっとなって、目元が熱くなる。
辺りを見渡す。ここには、暗闇しかない。今まで押し殺していた感情が、溢れ出るのがわかった。
もうとっくに限界だった。
俺は無意識のうちに笑っていた。その汚い笑い声が、辺りに響き渡る。キーンという耳鳴りがして、自分の声に靄がかかった。
俺はただ、おもしろくっておもしろくって、永遠と思えるほど長い間、笑っていた。狂ったように、壊れたように。何かがすごくバカバカしくて、滑稽で、つらくて、苦しくて、でも逃げ場なんてどこにもなくて。
もう顔を濡らすものが、涙なのか雨なのか、はたまた涎なのか鼻水なのか、もうなんなのかも分からない。両手を広げて、雨を全身に浴びて、意味も無くぐるぐると回った。はしたなく、穢らわしく。もう全てがどうでもよかった。ただ、楽になりたかった。


子供の頃、大人になったら空を飛べると思っていた。当然、そんなことは叶わ無かった。
でも不思議と、今なら叶う気がした。


俺の身体はふわりと飛んで、暗闇の中、重力に従って堕ちていく。硬いものに強くぶつかった瞬間、身体の全ての重みが消えた。
ふわふわと空中を好き勝手に飛び回る。
無邪気に、子供のように。

やっと、自由になれた。

10/13/2024, 12:28:30 PM