いず子。

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梅雨なんて嫌いだ。ジメジメとして憂鬱にさせてくるから。でも不思議と雨の音は嫌いじゃない。どこか寄り添ってくれているような気がするからだろうか。


田んぼに溜まった水が海に見えた。


朝になって雨が止めば私の住んでいる三階スレスレまで雨水が溜まっていて、腕を突っ込んでかき混ぜれば、機能停止した信号機が揺れる。水溜まりを踏めば、お前の顔が歪むように。


お天気雨という意味での、狐の嫁入り。昔の人にはそれくらい不思議な現象だったのだろう。冷たい雨が日差しで気持ち悪い温度にぬるくなる。あったかいね、って笹沼は笑う。その心は私のものだったんだろう。


かぽっと外して交換したんだ。マウスピースみたいにさ。使う年齢じゃないけれど、そういう感じだ。僕と私と笹沼の心。同じ軽さなのに重みが違う。何故だろう。


水溜まりにうつる笹沼の顔をふみつぶす。「うわあ」と大きな声が不快に脳内に響く。反対にうつる笹沼の顔が歪む。



<梅雨>6.2
No.8

6/1/2023, 5:15:12 PM