かなで

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優しくしないで 


これ以上私のテリトリーに入らないで 

折角、一大決心したのに それが萎れてしまう 
 
窓から眺めているだけで幸せだった    

貴方の声は聴こえないけれど 笑顔で相手を思いやって車椅子を押していた 

別の日は廊下で気乗りしないお爺さんの歩行訓練に付き添っていた
 
初めて 貴方の声が私に届いた  

私の中で 何度も何度も 眠るときでさえ、貴方の声が往復する  

あの時から 貴方に捕われたんだ 

人間は欲深いもので 毎日、ひとめ見たいと無意識に探している 

生憎、私と貴方との接点は叶いはしなかった

すれ違い様に挨拶する程度の位置関係  

常に貴方の周りには人という壁がそびえていた

悶々としてる間に 私の転院の話が早まった

もう、すれ違い様に挨拶することも、 

窓から見つめることも、声を聴くことも出来なくなる 

私は担当のナースに車椅子に乗せてもらい、いつも見ていた景色の場所を散歩に出ていた 

突然、突風が吹き上がり、膝のブランケットが攫われる  

飛ばされたブランケットの先には、恋い焦がれた貴方の足元 

私より先に、「あ!◯◯さん、ありがとうございます!」とワントーン高くなった声を発した担当のナースが駆け寄り、ブランケットを手渡されていた

そこは見たくない景色に一変した  

貴方の声に耳障りな音が混じったから混濁して届いた 

私だけ切り離された空間に取り残されていた 

ワタシの目の前で 他の人に 優しくしないで  

心に秘めて 静かに終わりを待つ 

願うなら きれいな片思いの形で想い出にしたかった 

こんな ドス黒い感情を生み出して終わりたくはなかった 
  
誰かと誰かの始まりを

目の当たりしたのが貴方との最後だなんて  

これから先 ワタシは私に戻れるの? 








 
 

 





5/2/2024, 12:03:35 PM