時の雨

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私は思考をする必要がない。
服も、食事も、進路も、身の回りの物事全て家族がどうにかしてくれる。
私は誰かのパペット人形だ。

苦痛ではない。

部屋の隅で小さな命が動く。いつだったか、友人がペットを飼っていると聞き、羨ましがった私が強請って、我が家でも飼い始めた黄色のインコが可愛らしく鳴く。
私もこの子と似たような生活だ。籠の中で餌を待ち、籠の中で悠々と息をする。
そう思うと何故か途端に自分が惨めで可哀想に見えてくる。

この子が籠を出て、空を羽ばたく姿を想像する。
自分自身がいつか羽ばたくことを夢に見る。


籠には羽一つだけが残っていた。
鍵が脆かったのだろう。あの子は自由になった。
何だか狡いなと私の中で気持ちの悪い感情が渦巻く。いや、私も羽ばたける。来月から一人暮らしなのだ。あの時の不快さも、全部どうにかなる。
そう思っていた。


苦痛だ。全部、全部嫌になる。今まで他の人がやってくれたのに!
いきなり支えてくれた糸を切られて自立なんて出来るわけがない。おかしい。

私は今の今まで自分から動いたのか。
否。

あの鳥は羽ばたけたのに。
私だけが、私の羽は未完成で。

肝心の家族からはいきなり拒絶されて、身なりを整える術もまともに学んでいない私に友人や恋人が出来るわけもなく。
こんな事なら一生籠の中のままでいいのに。

部屋の隅で無価値な命が動く。

窓の外では黄色のインコにハエが集っていた。


2024/07/26 #鳥かご

7/26/2024, 8:05:13 AM