紫苑

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昔は全ての色がきれいに見えて、毎日がキラキラ輝いていた。
一つ一つの色が大好きだった。

今は、何もきれいだと思えない。
全ての色が淡く霞んで濁っているように見える。
いろいろな色が混ざって汚くなった水彩画みたいだ。

辛い?
いや、辛くない。
悲しい?
いや、悲しくない。
苦しい?
いや、苦しくない。

じゃあ何故こうなったのか。
ふとした瞬間に、自問自答する。
そんな、なんの代わり映えのない日々を歩んできた。


そんなある日、昔の絵を見つけた。

こんな世界で、この絵だけがきれいに見えた。
特別、この絵が上手いわけではない。
むしろヘタクソで、何を書いているか分からないほどぐちゃぐちゃだ。

ただの、蒼い空の中に虹色の雲が浮かんでいる、クレヨンの絵だ。

そのはずなのに、何故か涙が止まらない。

昔は、一点の曇りもない目で世界をみていた。
それがいつの日か、何かの拍子でたくさんの色が混ざってしまった。
汚い色を知った。
知ってしまった。


そうか、私は

辛かったのだ。
悲しかった。
苦しかったのだ。


それを独りで、抱えて、閉じ込めて、抑えつけようとした。

それが複雑に混ざり合って、濁ってしまった。

きれいな世界から目をそらして自分から汚した。



空を見上げた。
それでも溢れてくる涙を拭いて。

あぁ。私は泣けたのか。

ただ、蒼く、深く、広い空を見上げて
泣いた。
ただ、きれいなあの空に手を伸ばして
泣いた。


『好きな色』

6/21/2024, 11:32:55 AM