テープ跡のように、いつまでもしつこく残っている嫌な記憶。
楽しい記憶で埋め尽くしても、ふとした瞬間に嫌な記憶が這い上がってくる。
俺は嫌な記憶を消してもらうために、記憶屋に来た。
偶然ネットで見つけた店だが、一部でしか知られていない店らしい。
中に入ると、すぐに奥の薄暗い部屋へ案内され、ベッドに寝かされた。
「本当に、消していいのか?」
店長と名乗る男に、記憶を消していいか確認される。
部屋が暗くて、店長の顔が見えない。
「ああ、頼む」
「本当に……だな?」
どうして何度も聞いてくるのだろう?
「何か問題があるのか?」
「一部の記憶だけ消すと、性格が変わるかもしれない」
「嫌な記憶を消したぐらいで変わる訳が……」
「その記憶があるから、今の自分がいるんだ。大袈裟に言えば、記憶を消すということは自分を否定することになる。あと……」
「小言はいいから早く消してくれ!」
「……分かった」
俺はただ、嫌な記憶を消したいだけなんだ。
そうすれば、きっと……。
「そのまま動かないように」
頭に、何か被される。
しばらくすると、頭の中の何かが……スーっと抜けていく。
「消し終わったが、どうだ?気分は」
「あ……あ?」
嫌な記憶を消して良い気分のはずなのに、なぜか、不安で、すごくイライラする。
「記憶の一部が無くなって、不安になってるんじゃないか?」
「んなこと……ねぇよ」
「今ならまだ戻せるぞ」
「……」
「どうする?」
「……戻してくれ」
「分かった」
結局、俺は嫌な記憶を戻してもらい、店から出た。
嫌な記憶でも、消えるとあんなに不安になるとは……。
どんな記憶でも、俺にはかけがえのないものなんだと感じた。
3/25/2025, 1:05:56 PM