瑠衣

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『星の願い』

山あいの小さな村に、透(とおる)という名の少年がいた。
透は生まれつき体が弱く、村の子どもたちと走り回ることも、遠くの町へ行くこともできなかった。
けれど、彼にはひとつだけ、誰にも負けない楽しみがあった。
それは、年に一度だけ訪れる「星の降る夜」を、丘の上から眺めることだった。

その夜、村では「願い星祭り」が開かれる。
星が空からこぼれ落ちるように流れるその日、人々は空に向かって願いを唱える。
「星に願えば、ひとつだけ叶えてくれる」
そんな言い伝えが、村には昔からあった。

今年もまた、その日がやってきた。
透は母に手を引かれながら、息を切らしつつも丘の上へと向かった。
草の匂い、夜風の冷たさ、遠くで響く祭りの太鼓の音。
すべてが、どこか遠くの世界のように感じられた。

やがて、空が星で満ち始めた。
ひとつ、またひとつと、光の尾を引いて星が落ちていく。
透は、そっと目を閉じて、心の中で願った。

「星さま、どうか僕の病を治してください。
それが無理なら……もう、楽にしてください。」

その瞬間、ひときわ大きな流れ星が夜空を横切った。
まるで透の願いに応えるように、静かに、優しく。

その夜、透は深い眠りについた。
母が何度呼んでも、もう目を開けることはなかった。

けれど、不思議なことが起きた。
翌朝、丘の上に咲くはずのない花が、透の寝ていた場所に咲いていた。
それは、透が昔、絵本で見て「いつか見てみたい」と言っていた、星の形をした白い花だった。

村の人々は言った。
「きっと、星があの子の願いを叶えたんだね。」

透の願いが「治ること」だったのか、「楽になること」だったのか、それは誰にもわからない。
けれど、あの夜、星は確かに彼のもとに降りてきた。
そして今も、丘の上にはその花が咲き続けている。
まるで、透の願いが、風に揺れながら空を見上げているかのように。

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(願い事)

7/7/2025, 11:02:45 PM