病室
ここは私の知ってる世界の全てと言えるかもしれない。
もちろん窓から外の世界を見たことはある。けれど、私は生まれてからこの病院を出たことがない。ここから出たことがないから、それが不便だとも思ったことはない。私の家は貴族の家系らしく、私が欲しいと言ったものを持ってきてくれるし、話し相手もいる。患者は今の所私だけだけど。じゃぁ話し相手は看護師さんとか?と思ったかもしれないが、看護師さんはほとんど毎日違う方が来るから、仲良くなれないの。『コンコン』ほら、そんなこと言ってたら今日も彼が来たわ。
「どうぞ」私が答えるとその人は入ってきた。
「おはよ!今日も来たよ。来るのが遅くなってごめんね?」そんなことを言っている彼はアデル。正直もう少し静かにしてほしいとは思っていたりする。彼とはたまたま1ヶ月ほど前に病院内で知り合って、それからほぼ毎日話し相手になりに来てくれてるのだ。彼がいたら別に病院から出られなくてもいいかなとあらためて思っていた。
「別に待ってないから遅くてもいいわよ」
「相変わらずつめたいね〜」苦笑しながら彼は言う。
「何か文句あるの?」
「いーやなんにもないよ。何を言っても君にはかなわないからね」
「わかってるならいいわよ」
自分でもわかってる。彼につめたく接してること。けど、普通に接しようとしてもできないの。
私は彼が好きだから。
会う人が少ないからそう思ってるだけだと思われるかもしれないけど、それでも好きなのだ。こんな話し方も嫌われるってわかってるけどそれでも好き。
いつもたった30分の彼といれる時間が今の私の生きがいだ。
「それじゃ、僕帰るね。ばいばい!」
「ばいばい、また明日ね」
彼が帰って私はふと気がついた。いつもはまた明日!と返してくれる彼がいってくれなかった。
まぁ、私の考えすぎよね。
その日の朝、いつもより早く目が覚めたので、私はカーテンと窓を開けた。夏なのにも関わらず、涼しい風がいっきに入ってくる。ぱらぱらと本のページがめくられ、つけていたピンが庭に落ちる。あっと思い、下を見ると、そこには色とりどりの花が咲き乱れているはずなのに、一部が赤黒く染まっていた。頭が真っ白になる中、私は病室のベルを鳴らした。すぐに看護師さんに伝え、昼頃になると、何事もなかったかのようにその場は元通りになっていた。昼食を持ってきてくれた看護師さんにあの場はどうなったのか、何があったのかを聞いてみると、
「聞かないほうがよろしいかと思います。」
「驚かないから教えて。」
この調子で私が必ず聞こうとしていると、少しだけ看護師さんは話してくれた。
「ある一人の青年が屋上から飛び降りたのです。」と、一言だけ言ったのだ。
「そうなのね、教えてくれてありがとう。」
そんな不吉なことが起こったのかと、その時は安らかに眠ってくれたらとだけ思っていた。
けれど、その日から彼、アデルが来ることはなくなった。誰も何も言わなかったが、なくなった青年とは彼のことだったのかもしれない。これから私は何を生きがいにすればいいのだろう。一人で病室にいると考えてしまうので、私は病院内をうろうろしていた。すると私は聞いてしまった。
「やっぱり皇女様には関わっちゃいけないのよ。皇女様関わったら私達も死んでしまう。」
「きっと私達もああなってしまうのよ」
「この国のたった一人の皇女様だから仕えてるけれど、やっぱり逃げたほうがいいのかな…」
「でもその後無事逃げれた人っていないよね」
「どこでこの話を誰かに言うかわからないもんね」
『バタンッ』
私は自分の病室、いや、病院だと言われ、思っていた場所の自分の部屋へ逃げた。
「嘘でしょ…」
私に関わった人が死ぬだなんて。信じられないが、信じざる負えない。毎日違う看護師さんいや、使用人さん。この建物から出てはいけない私。それに、私のせいで死んだアデル。
愛していた貴方を失った私は生きる意味を失った。
貴方につめたく接してしまってごめんなさい。貴方を殺してしまってごめんなさい。
貴方は私なんかに会いたくないと思うけど、これは私にできるたった一つの償いなの。許して。
さようなら。私の世界。
2024/8月2日 No.3
8/2/2024, 4:08:39 PM