わをん

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『空模様』

ジリジリと肌を灼くような熱気が黒土と芝生の広がる野球場を包んでいるのがテレビ越しにもよくわかる。地方大会を勝ち進み、全国大会へと進出した母校の野球部には想い寄せるひとがいて、そのひとがいつ映るともわからないせいで試合中はテレビの前から離れられない。
野球場へは気軽に応援に行くには遠く、天気予報も変わるほど。雨が降ったら洗濯物を取り込んでおいてねと母からの厳命に試合を応援しつつも窓の外から見える空模様も一応気にはしていた。目が離せない試合展開に手に汗握り、一時とはいえ危機を脱した瞬間に何か忘れている気がしてふと窓を見ると、先ほどより暗い雲の立ちこめた空から雨が勢いよく降りしきっていた。
弾かれたように立ち上がりドタバタと洗濯物を取り込もうとするのを阻むように試合が動きを見せ始める。早く取り込めばいくらでも見られる、と自身を奮い立たせたけれど、あの人がバッターボックスに立ち、大写しになった瞬間に完全に足が止まった。そして、よく晴れた青空に大きく打ち放った白球が映えてやがて柵を越えていくのを目撃した瞬間にすべての意識を野球場に持っていかれた私は、降りしきる雨のことと濡れそぼりゆく洗濯物のことなどすっかり忘れてしまうのだった。

8/20/2024, 4:20:54 AM