行かないでと、願ったのに
あなたは今ある幸せを捨てた。
そして誰も手の届かない遠い遠い場所へひとり行ってしまった。
……ごめんなさい。わたしのせいでごめんなさい。
あなたの運命を大きく狂わせてしまった。
わたしはやっぱり疫病神だ。
うっすらと目を開けば小さな光が見えた。
それにそっと手を伸ばすと輝くなにかが指先に触れる。
――――あなたが残した懐中時計だ。
そっと懐中時計をなぞりながらあなたと過ごした時間を思い起こす。
どれも陽だまりのように優しくて穏やかで、どこか甘い。
あなたがわたしの肌に触れるたびにあなたの温度を感じて心が安堵した。
でももうそれもなくて。
『愛』を知らなかったわたしはこれが『愛』と知ってしまった。
贅沢なことにわたしのようなモノが『永遠の愛』というものに焦がれてしまう。
当然に『愛』はわたしに振り向くことはなかった。
それでもあなたといたいと思うのは我儘ですか?
11/4/2025, 11:11:38 AM