【君を探して】
ふわり、と空気が動く。
隣人の気配がするりと遠ざかる。
ひたりひたり、と裸足の足音が小さく響く。
ドアが開いて、通り抜けていく。
(器用だなぁ。)
ぶつかるでもなく、部屋を出て行ってしまう背中を追いかける。
ひらいてしまった距離を詰める為、ゆっくりと移動する背中を、早足で追い越した。
「かっちゃん。待って。」
廊下の角へ一直線に向かう目の前の人が壁にぶつからないように待ち受ける。
その人は、ひたりと足を止めて、ふいと廊下の角を曲がる。
「勝手知ったる我が家だねぇ。何処行くの?ねぇ、教えて欲しいな。かっちゃん。」
するりと逃げていく人影に寄り添うように歩いて行く。
(寝てるなぁ。)
いわゆる夢遊病というヤツなのだ。
無理矢理に抱き止めても、揺さぶってもこの状況は変わらない。
「かっちゃん、探し物見つかったら教えてね。」
諦めて、大人しく付いていくことにしたら、不思議な真夜中のお散歩タイムになった。
(怪我はしないし、その内に部屋に戻って行くし、気が付かなければそれまでなんだよなぁ。)
帰宅時、疲れた様子だったのは覚えている。
体より、心が疲れていたのかもしれない。
「あ、かっちゃん。水分補給は?」
腕に抱きついてみても、返事はない。
(本当に眠ってる。)
そのまま腕を組んで、一緒に歩いて行く。
「…かず、ま。」
夢遊病者の口元から、ふと言葉が零れた。
「かっちゃん、オレ隣に居るよ?」
珍しいと思いつつ、顔を見上げてみる。
「あ、居た。」
寝ぼけた顔がふにゃりと笑った。
「良かった。…探してた。」
ぎゅうと抱き締められて、驚く。
「えぇ、オレ探されてたの?」
おもむろに抱き締められて、深呼吸する音が肩口から聴こえてくる。
「ぅん、一緒に寝よ。」
とても吸われている。
「ねぇ、かっちゃん?くすぐったいよ。しかもすっごい吸うじゃん。」
グリグリと押し付けられる額がくすぐったくて、笑ってしまう。
「部屋、戻ろう。もう一眠り出来るでしょう?」
2人は連れ立って、寝室へ向かった。
3/14/2025, 10:40:58 AM