「時を止めて」
クロとソファで毛布にくるまっている。
部屋は夕方のにおいがする。
特別なことは何も起こらない。
ただ、お互いの息の音が、静かに、そこにあるだけ。
クロの毛並みが、昔より少しごわごわしてきたのを知っている。
指先に、命の重みを感じる。
私たちは、この瞬間をいつか失うだろう。
どんなに願っても、時間は誰にも味方してくれないから。
クロの時間が、私の時間と違う速度で進んでいることも、わかっている。
だから、今、目をつぶる。
瞼の裏に、この温かさと、クロの軽い寝息を焼き付ける。
瓶詰めにできるなら、そうしたい。
光も風も届かない、どこか奥深い場所にしまっておきたい。
でも、できないから、代わりに深く吸い込む。
この一瞬の匂いが、私の全部だ。
そして、またすぐ、明日が来てしまう。
11/5/2025, 12:48:45 PM