《優越感、劣等感》
他者をいたぶり、貶める。そんな残酷な行為は後を絶たない。
人間はおろか、賢いとされる霊長類や穏やかそうなイルカですら集団で残虐な行為にすら及ぶ。
他者より優位に立つ事で、幸福感や優越感が刺激されるのだろう。
そして、その刺激による快感を覚えた者は、また更なる刺激を求めて他者をいたぶる。
加害者達の優越感と引き換えに、被害者には劣等感が降り積もる。
それはあたかも豪雪地帯の雪のごとく、積もっては冷えて固まり、また降り重ねられる。
かつての彼の心は、まさに被害者のそれだった。
旅の最中に大事な物が紛失し、それが盗難ではないかとされた時。
彼は、誰かを疑う事はしなかった。
ただ、自分は盗みに手を染めてはいないと。
「やはり僕のことを信じられませんか?」
彼はあの時、相棒の中の私にそう問いかけた。
「信じてますか?」ではなく。
自分で自分が信じられなかったんだろうな。直前に祖国の者から掛けられた術に操られ、もう一つの大事な物を奪わせられたから。
そして、彼は幼い頃から家族に虐げられてきたせいか、自分は何はなくとも疑われる立場にいると無意識に思い込んでいる。
その無意識は、長い間彼の中で幾度も降り積もり冷え固まってしまった雪のようで。
冷え切った心は、思考の芯も冷え固まらせる。
それでも彼の元来の心の暖かさと芯の強さのおかげで、優しくも力強く前を向き歩いている。
彼のそんなところを尊敬してるけど、時々ふと見せる苦しそうな様子に歯がゆくなる。
相棒の心の中にいた私は、姿が見えない事からかなりの人達に存在を疑われてきた。
でも、あの時彼…あなたは私の名前を呼んでくれた。淀みなく、まっすぐに。
私を信じてくれたあなたを、私は信じた。だから一も二もなく答えた。
「信じています。」
あなたの事を、心から。
あの時迷いなく答えた想いは、あなたの傍にいる今はなお強くなった。
例えあなたが自身を信じられなくても、私は未来永劫あなたを信じ続ける。
何があっても、かつての相棒すら敵に回しても、私はあなたの味方であり続ける。
他者の歪んだ優越感と引き換えに降り積もったあなたの劣等感は、必ず私が取り去ってみせる。
行き過ぎた優越感は驕りにもなる。
だけど、堅実なあなたは絶対にそんな事にはならない。
自らの苦い経験を糧に、どこまでも優しく誰かを守れる人だから。
だから、冷え固まった雪が少しでも溶けて流れていきますように。
7/14/2024, 12:03:57 AM